「だいじょうぶだからっ・・・・。」
「だいじょうぶなわけないだろっ!」

まおが布団を抱えてベットからすり抜ける。

「おめでとっ・・・。」
「何、勝手に勘違いしてんだよ。」

「だって、電話・・・・。」
「ばーかっ。マネさんからの激励電話だよ。」


ことのおこりはつい5分ほど前のこと。

ベッドの中で抱き合って、最高に幸せなひと時を過ごしていた。

突然に枕元に置いてあった電話が鳴り響き、マナーモードにしていなかったことに気まずい空気が流れる。
まおが「出ていいよ。」と視線で促す。
しっかりと俺の背中に腕をまわしたまま。

「ちょっ!おめでとーっ!ますます男に磨きかかっちゃって、将来も安定だねっ!」

心待ちにしていたオーデションの結果を報告してくれる内容だったのだが、多分まおには祝福の言葉やら、惚れるやら、安定やらそんな単語だけが聞こえてきたのだろう。

まおが引退するにあたって、本気で結婚したいと考え出した。
自然と言葉になって現れてしまう結婚という二文字は予想しないところで波乱を呼び、まおが不安になってしまう要素となった。

「大ちゃん、結婚したいんだ。子供欲しいんだ。もう、終りなの・・・?」

そう言って涙ぐむたびに、与えられた家族ではなく、自分で作り上げる家庭というものに憧れる。
でも、相手は誰でもいい訳ではなく、まおとともに歩んでゆきたい。

そう、何度も伝えるのだけれど。

「だって、おれ、こども産めないし・・・。」

と、堂々巡りの愚論になってしまう。

「例えば、の話だよっ。自分が育ってきた環境を考えると、家庭ってゆー響きから両親が愛し合っていて、子供がいて仲良く笑いあっていて、みんなが手を繋いでわっかになっていて・・・。
でも、その真ん中にあるのはまおの笑顔なんだから。」
「・・・うん・・・。」

言葉というものは、難しい。
自分にとっては、まおのことを真剣に愛しているんだよ。という感情表現で使ったつもりでも。
周囲の反応が「いよいよお前も結婚かあ!相手はどんな美女だよ。それともかわいい系?いい父親になりそうだよなあ!」とかって反応を示すたびにまおのテンションがどんどん下がってゆく。
言わせとけ。と無視していると勝手に誤解して、わかってる。平気とか言いながら涙ぐんだりしている。

「お前を守らせてくれ・・・。」

右手が夢をつかむために高く、高く伸ばし続ける腕だとすれば。
左手はお前の手を決して離さない。

「・・・一人で泣いてんなよ。バレバレなんだよ。馬鹿。」
「・・・ごめっ・・・。」

布団ごと抱き締めるようにベッドからすり抜けたまおの背中はひんやり冷たかった。
顔に押し付けた布団から顔をあげると、密かにこぼしていた涙でぬれていた。

「あー。もうっ。謝るなら最初からつまんない仮説立てるなよなっ!子供がほしいから結婚する。とかじゃなくて、自分の帰る居場所みたいなものが、まおだと思ってるからだぞ?・・・まあ、ねーちゃんとことか見てると、子供いたらいいな。とは思うけど。」
「・・・結婚と恋愛は別。じゃないの?」

それでも意固地にゆらゆらとゆれるまおの背中が小さく見える。
夢を語るときのまおは、あんなにも凛としていて力強いのに。

「お前は、恋とか愛とかそんな簡単なもんじゃねーだろ?恋も愛もいつかは失せるときがくるかもしれないけど。
お前は魂の片割れみたいなもんだよ。カタチや名称で表せない大切な存在だよ。」

まおのやわらかな髪の毛に鼻先を埋めて、首筋にちゅ。とキスを落とす。
床についたままの左手にそっと手のひらを重ねる。

「俺の左手はいつでもお前と繋がっていることを忘れないでくれ。」

どんな噂にも惑わされないで。
どこまでも夢を追い続けれらるのは、必ず帰るべき居場所があると左手が教えてくれるから。

「一人でどっかいくんじゃないぞ?」
「うん・・・。わかった。」

ほっと安心したようにまおから力が抜ける。


初めから100%のカップルなんていない。
こうやって、何度も何度も誤解やすれ違いを繰り返しながらゆっくりとお互いを信頼できるようになるのだろう。

愛されていることを疑うわけではなくても。
ふ。と心が弱っているときには指先が離れそうになるかもしれない。

そんな時には思い出して。
真実は、この左手だけにある。と・・・・。


カツン。と触れ合った硬い金属の感触に、改めて永遠の愛を誓うのだった。


「愛してるよ。まお。」


唇にまおの左手にはめられたリングの冷たさが触れる。


「飾りじゃないからな。これは。」
「うん・・・・。」


こんなにも好きだよ。と瞳を輝かせて訴えてくれるのに、どこか頼りなく感じてしまうのは何故だろう。


まおを安心させるつもりで、本当は俺が安心したいのかもな。


カタチじゃない。と言いながら、カタチにこだわってペアリングを贈ってしまうあたりが。





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アメンバーのKちゃんのイラストより^^

左手、というお題からお話をつくってきました^^
私の中では、ぎゅっと抱きしめた布団が涙を隠しているように思えたんですね^^

・・・ってか、長っW
夢をつかむための右手。まおを愛するための左手。
という一行がかきたかっただけなのですが、いつものごとくどんどん本題からずれてしいまい何が言いたかったのかよくわかんなくなってしまいましたW