「どうしても、やりたいんだ・・・。」

ずうっと俺の背中を見つめながらも、抑え切れなくなった。というまおの夢。
後悔しないように、生きる。
それは、ただひとつの目標の頂点を目指すことではある。

「そんな寄り道してる暇あるのかよ。って言われそうだけど・・・。」

きゅ。と唇を噛み締めてうつむいたまおは、俳優の仕事を捨てることもでず、新しい夢をみることも諦めきれず苦しんでいるように見えた。

「・・・寄り道なんかじゃ、ないだろ?」

無駄に寄り道して時間を潰してしまっているように感じることがあるかもしれない。
・・・けど、いつもの通いなれた道を足早に目的地に向かって突き進む日常から、ちょっと寄り道したときに出会う大切な人との出会いがあったり、道端に咲く草花に季節を感じたり。

そういう一見無駄に見える時間の過ごし方だって、自分の糧になっている。

「人生、楽しまなきゃ、損だぞ?」

くしゃ。と頭を撫でてやると、まおが嬉しそうに笑った。

「・・・ありがと。でも、本当に自分にこっちで生きていけるだけの才能があるのかもわかんないし・・。」

夢は追いかけたい。
でも、自立するためには甘えてばかりもいられない。

出会ったばかりのまおは、ただただこの道で成功すること、しか考えてなかったけど。
ちゃんと、そんなことまで考えるようになったんだなあ。と感慨深くなる。

「大人になったよな。まお。」
「・・・ほんと?うれしい。」

「でもな。まお。大人になるのと、臆病になるのとは違うぞ?」
「・・・え?」

「まお、俺のこと信用してない??」
「・・・ええっ!?」

「まおがインテリアの道で生きていけるようになるまでぐらい、お前の人生背負ってやるさ。」
「・・・・・。」

ぱちくり。とまおが大きな瞳を開いて、俺を凝視している。

「・・・なに?そんな、びっくりするところか?」
「・・・や。だって、なんかそれって・・。」

「もちろん、プロポーズのつもりだけど?っつーか、お前、今までなんだと思ってたわけ?俺のこと。」
「・・・恋人・・・。」

「あのさあ。30過ぎた男が、そんな好きとか嫌いだけで、わざわざ同姓の恋人と付き合ってると思うか?」
「・・・・。」

泣きそうになりながら、ふるふると、黙ってかぶりをふる。

「お前の年でそういうこと言われるのって、重い?」
「・・・ううんっ。ちがっ・・・。うれしっ・・・。」

「じゃ、決まりだ。思いっきり自分のやりたいことやれよ。」
「・・・ごめっ・・・。ありがとお・・・。」

とうとう本気泣きモードになってしまったまおが、俺のシャツを握り締める。

「・・・いいの?大ちゃん。後悔しない??おれ、子供産めないよ?幸せな家庭作れないよ?」
「・・・十分、幸せにしてもらってるさ。」

伊達に30年も生きていないのだ。
正直、付き合っているうちに結婚をほのめかされた女性だっている。

だけど、未来を思い描いたときにお前よりも心安らぐ相手。というのがなかったんだよ。

「俺も、自分が一番生きたいように、生きるさ。」

家庭を持ちたい。我が子と遊んでみたい。結婚して親を安心させてやりたい。
もちろん、そんな憧れだってゼロではないけれど。

一番したいことは、何か?
それは、まおの生き様を一生見守り続けること。
どんどん成長するお前を、見守るのが俺の楽しみ。

・・・そして、いつか静かに二人で暮らそう。

「・・・じゃあ・・・。じゃあ・・・。」
「・・・なんだ?」

うんと、照れまくって、シャツをつかんだままぽそり。とまおがつぶやいた。

「一生、一緒にいてださい。」
「それ、はい。以外の選択肢ある?」

「・・・ない。と、嬉しい・・・。」

押し付けがましくなく。
でも、俺のことを愛してくれていることがひしひしと伝わってきて、愛おしさが溢れ出す。

「ばーかっ。そこは、最初からノーの選択肢は消しておくんだよっ。」


ぎゅううううっ!と、小さな頭ごと、俺の天使を抱き締めた。





-------数年後。

「大ちゃんに無理さえないように、絶対成功しなきゃ。だからね。」

精力的に、自分を売り込み、めきめきと成長するまおの姿があった。


養ってやるぞ。

その言葉に偽りはなく、俺のことを思いながら待っていてくれる未来も悪くはない。

まおの夢を応援しながらも、どこかでそんなふうに思っていたのだけれど。


やっぱり、夢の実現のためにキラキラと輝いているまおを見るのは楽しい。


まぶしいぐらいに強く美しい俺の天使。