そっと繋がりをほどき、まおの身体を清め、洋服を整える。
ポケットに忍ばせておいた博士がくれたIチップを取りだす。
*
「長く、生きすぎた。」
疲れたように、そう微笑んだ博士が、ナイフを取り出し、胸につきたてる。
ナイフを伝ってだらだらとしたたり落ちる鮮血をは、まるで映像でも見るようだった。
ツクリモノに囲まれた世界で、きちんと生身の人間に流れている血液。
「ほら・・・。お前の見たかった空は、この中にある・・・。」
ドクドクと脈打つ心臓に直接手のひらをねじ込ませ、小さなICチップを取りだす。
生暖かい血液にまみれたチップを受け取ると、ほっとしたように博士が笑った。
「お前が思い描いた空と違ったとしても・・・それが、真実だよ。」
倒れこむようにして覆いかぶさる博士を受け止めながら、抱き締められているような錯覚に陥る。
幼いころから入り浸っていたなんとも心地のよかったこの部屋。
甘いココアを、ほら。と優しく微笑みながら差し出してくれた博士。
親のぬくもり。というものは絵本の中の昔話だったけれど、これが父親のぬくもりなのかもしれない。
博士のくれた穏やかな愛情に包まれて、俺も幸せだった。
「・・・ありがと・・・。博士。」
世の中の秩序から外れた異端児。
でも、それがお前という存在だよ。
ツクリモノでない、真実の存在。
そんなふうに、言ってくれている気がした。
*
温室に隣接するコントロールパネルに囲まれた部屋。
先程までの温かい、みずみずしい世界から一転して無機質な空間になる。
初めて触れるパネルだというのに、ICチップから伝わってくる情報が詳細に操作方法を教えてくれる。
種の保存の目的から外された博士の存在は、自己再生と繰り返し、何百年と生き続けているのだと教えられた。
数え切れないほどの子供たちを、ここから見送ったんだよ。
もう、ほとんど顔も覚えてない子ばかりだが・・・。
と、遠い目をしながら寂しそうに微笑んだ博士の横顔に、子供心に博士の抱える孤独が伝わってきた。
目の前に映し出される映像に、涙が止まらなくなる。
「お父さん・・・。」
ここでは、そう呼べる存在などありはしない。
目的に応じて、組み合わされたDNAはその瞬間に役割を終える。
自分は何の目的で作られたのか。という事実だけが意味をなす。
なのに。
記憶にないのにひどく懐かしく思える美しい女性と、この温室で博士が抱き合っている。
伸ばされた腕も、抱きしめる腕も、慈しみに満ち美しい。
「博士・・・。俺は異端児なんかじゃ、なかったんだ・・・。」
突然変異で外の世界に憧れたわけではなく、貴方がこの身に残してくれた記憶。
愛するという感情をこの身に注いでくれた両親。
そして、自分の意思で人生を決定するという強さを身をもって教えてくれた。
この温室が居心地よかったのも、きっと家族の愛で溢れていたから。
・・・だから、俺も愛する。という感情をもった。
「まお。一緒に行こう。自由な外の世界へ。」
くったりと力なく横たわっているまおを抱きかかえて、パネルの向こうへと続く扉を開けた。
ポケットに忍ばせておいた博士がくれたIチップを取りだす。
*
「長く、生きすぎた。」
疲れたように、そう微笑んだ博士が、ナイフを取り出し、胸につきたてる。
ナイフを伝ってだらだらとしたたり落ちる鮮血をは、まるで映像でも見るようだった。
ツクリモノに囲まれた世界で、きちんと生身の人間に流れている血液。
「ほら・・・。お前の見たかった空は、この中にある・・・。」
ドクドクと脈打つ心臓に直接手のひらをねじ込ませ、小さなICチップを取りだす。
生暖かい血液にまみれたチップを受け取ると、ほっとしたように博士が笑った。
「お前が思い描いた空と違ったとしても・・・それが、真実だよ。」
倒れこむようにして覆いかぶさる博士を受け止めながら、抱き締められているような錯覚に陥る。
幼いころから入り浸っていたなんとも心地のよかったこの部屋。
甘いココアを、ほら。と優しく微笑みながら差し出してくれた博士。
親のぬくもり。というものは絵本の中の昔話だったけれど、これが父親のぬくもりなのかもしれない。
博士のくれた穏やかな愛情に包まれて、俺も幸せだった。
「・・・ありがと・・・。博士。」
世の中の秩序から外れた異端児。
でも、それがお前という存在だよ。
ツクリモノでない、真実の存在。
そんなふうに、言ってくれている気がした。
*
温室に隣接するコントロールパネルに囲まれた部屋。
先程までの温かい、みずみずしい世界から一転して無機質な空間になる。
初めて触れるパネルだというのに、ICチップから伝わってくる情報が詳細に操作方法を教えてくれる。
種の保存の目的から外された博士の存在は、自己再生と繰り返し、何百年と生き続けているのだと教えられた。
数え切れないほどの子供たちを、ここから見送ったんだよ。
もう、ほとんど顔も覚えてない子ばかりだが・・・。
と、遠い目をしながら寂しそうに微笑んだ博士の横顔に、子供心に博士の抱える孤独が伝わってきた。
目の前に映し出される映像に、涙が止まらなくなる。
「お父さん・・・。」
ここでは、そう呼べる存在などありはしない。
目的に応じて、組み合わされたDNAはその瞬間に役割を終える。
自分は何の目的で作られたのか。という事実だけが意味をなす。
なのに。
記憶にないのにひどく懐かしく思える美しい女性と、この温室で博士が抱き合っている。
伸ばされた腕も、抱きしめる腕も、慈しみに満ち美しい。
「博士・・・。俺は異端児なんかじゃ、なかったんだ・・・。」
突然変異で外の世界に憧れたわけではなく、貴方がこの身に残してくれた記憶。
愛するという感情をこの身に注いでくれた両親。
そして、自分の意思で人生を決定するという強さを身をもって教えてくれた。
この温室が居心地よかったのも、きっと家族の愛で溢れていたから。
・・・だから、俺も愛する。という感情をもった。
「まお。一緒に行こう。自由な外の世界へ。」
くったりと力なく横たわっているまおを抱きかかえて、パネルの向こうへと続く扉を開けた。