まだ、行くな。

そんな気持ちに何度させられたことだろう。



まおの夢を応援したい、と思いながらも、ゆらゆらと心が揺れ続けた日々。

出会ったときから、強い意志をたたえた瞳に惹かれた。

同じぐらいの強さで、きらきらと輝く瞳を見て、ああ。これがまおの幸せ。まおの生きる道なんだ。と思った。



随分と前から決心していたのに、俺が納得するまで何度も話あって、納得するまで待っていてくれた。

「だいじょうぶ?大ちゃん。」

大ちゃんが寂しがってたら、なんだか離れがたいよ。

決心したことなのに、ゆらゆらとゆらめく瞳の中の光。


「ぎゅ。ってして?」

何度も抱き締めて。とねだられて、腕の中にまだまおが存在するすることを確かめたくて、抱き締めた。



「大ちゃんと一緒にいる。」とも、
「まおが行くなら俺も行く。」とも言わなかった俺たち。


出会ったばかりのころであれば、きっと引き止めてしまっただろう。


「終わりにするのか?」と詰め寄っただろう。


でも、今は。


どんなお前でも、どこにいたとしても、きっと愛し続けるから。

まるごと好きだから。



「もう、行くね。」


空港で一目を忍んで抱き合った。


「ああ。」
「もう、行くよ?」
「・・・うん。」


何度も同じ言葉を繰り返しながらも、お互い背中に回した腕をほどけなかった。


搭乗案内のアナウンスが響き渡る。


「もう、行け。」
「・・・そだね。」


背中を押してやるのが、俺の仕事。


まおが思いだす俺の顔が、笑顔であってほしいから。

未練がましく、弱い俺であってほしくないから。


「やっぱり、大ちゃんだよね。」って、いつまでも言ってほしいから。



まおの背中から、掌が離れ・・・指先が離れる。


ほんのりと残ったぬくもりを、ぎゅ。と握り締めながら、とびっきりの笑顔で見送った。



「がんばってこいな。まお。」
「・・・うん。」


泣きそうな顔をしていたまおが、俺につられたようににっこりと笑う。


やっぱり、お前には笑顔が似合うよ。



連絡通路に消える背中を見送りながら。



「がんばれ。まお。・・・・がんばれ。俺。」



飛行機が青空の向こうに消えてしまうまで。


何度も、何度も、呪文のように唱えるのだった。