「・・・まお?」
「なあに?」

唇が触れるまで、あと10cmとないのに。
じっと大きな綺麗な瞳で俺のことを見詰めている。

「なあに?ってお前、なんか余裕になったな~。」
「そう?」

「そうだよ。」

そうかなあ?とつぶやいて、また俺の顔をじっと見詰めて自分からキスをしてくる。
両頬を挟まれた指先がひんやりしていて気持ちがいい。

「普通、キスするときは目を閉じるもんだろ?」
「だって、閉じちゃったら大ちゃんのキスしてるときの顔見れないんだもん。もったいない。」

「もったいないって、お前。これだけ一緒にいたら、飽きるほど見てるだろうが。」
「でも、キスするときの顔はそんなにたくさんないよ?
・・・ほら、しちゃうとさ。そっちでいっぱいいっぱいになっちゃって、顔見てる余裕ないし。
だから、こういうキスだけのときって、結構貴重だったりするんだよ。」

ね?と同意を求められても、自分ではわからない。
そんなに、貴重な顔だろうか。

まおのほうが、よっぽど綺麗だと思うけど。
・・・・これを言ってはおしまいだけど、若いし、肌も綺麗だ。

「だってさ~。昔は顔真っ赤にして、ぎゅうっと目をつぶったりしてたぞ?キスだけでも。」
「あははっ。そんな時代もあったねえ。初々しい。」

軽やかに笑うまおは、初々しい。と言いながらも、少年のようだ。

「それって、じっと見れるぐらい慣れた、ってことか?」
「んんー・・・。そうとも言えるね。」

それって、どうなんだろう。
見慣れるぐらい。と見飽きるぐらい。って紙一重な気がするんだけど。
もう、ときめきも感じないってことだろうか?

「もしかして、キスしてもドキドキしない?」
「んん。キュンキュンするというより、幸せだなあ。って、しみじみ感じるよ。」

ふふふ。と俺のことを真正面から見詰めながら微笑を浮かべるまおは、ふんわりとした空気をまとっている。
俺にとっても、若かりしころの胸を焦がすような情熱で恋をしている。という感覚は薄れて、日々共に過ごせる幸福ってやつをしみじみ感じるようになった。

男だから、女性の肌にドキっとしたり、ふとした香りにドキっとしたり。
ということはゼロではない。

だけど、それは一時的なことで、一日中幸せに浸れるものではない。

「胸きゅんするのは簡単だけど、幸せだなあ。って思えるほどの愛情があるってことだよ。」
「そうだな。じゃ、こんな顔でよかったら存分に堪能してくれ。」

睫毛を伏せながら、何度もキスを交わす。
まおがまばたきする度に、睫毛が俺の頬をくすぐる。

恋。とはときめきだと思っていた。

トキメキを重ねた先には、穏やかな幸福が待っている。


恋・変化。