「ダイスケ。ちょっと寄っていかないか?」

仕事を終えて、私服に着替えていると同僚に声を掛けられる。
彼の指さす方角には、いわゆる夜の繁華街というやつがある。

なんとなく気乗りはしないけれど、興味が全くないわけではない。
退屈しのぎにはなるだろうか。と軽い気持ちで返事をした。

「・・・特に用事もないから、付き合うよ。」
「オッケーっ!じゃ、車回してくる。」

真っ赤なスポーツカーが音もなく滑り込んでくる。
助手席に座ると、身体にフィットするシートが深々と受け止めてくれる。

心地よい乗り心地の車。
歓楽街に出かける興奮。

当たり前に沸き起こってくるはずの感情を感じない。
あの夜から、理由もなく鬱々とした気分が、じんわりと俺を支配する。

無機質だったワークシティを抜け、派手なネオンがちかちかとする歓楽街にさしかかる。
興奮を覚えるように設計されたはずの、カラーリングとデザイン。
身体を売ることを目的として配合されたDNAの持ち主は、中性的な美しさがあり、きらびやかに着飾って客を待っている。

・・・なのに。

「どこにする?ダイスケ。」

瞳を輝かせて、うきうきと物色する同僚とは対照的に、俺の心は冷めていくばかりだった。

「・・・ごめん。やっぱり、今日はパス。」

ふらり。と歓楽街を外れ、見たこともない道をあてもなく彷徨う。

一体自分は何者なのか?
なんのためにここに存在しているのか。
何不自由ない生活。
食事も快適な住まいも与えられ、快楽さえも望めばすぐに手に入る。
何ひとつ不満のないはずの日常にむなしさを覚える。

誰一人、この世界に疑問など持っていないというのに。


「あれ?なんだ?これ・・。」

道の途中に突然現れる扉。
あたりには人の気配など、微塵も感じらないようなこの集落の外れ。
安全上の問題から、それぞれの集落には出入り口はひとつしか設けられていないはず。

「もうひとつの秘密の出口。ってわけでもなさそうだが・・・。」

この集落の特色上、加虐的嗜好の持ち主から身を守るための逃げ道。とかなのだろうか?


何も案内のない扉に、未知の世界に対する恐怖もあったが、この退屈な日常から抜け出せるような気もして、
ぐいっと、扉を押し開けた。