いよいよ18歳の誕生日がやってきた。

ドリームシティの出入り口で、みんなから花束を受け取る。

今まででは卒業式のように晴れやかな気持ちで見送っていたけれど、次にまおと会えるのはいつなんだろう?と思うと寂しさがこみ上げてきた。

「まお・・。まお?」

人ごみを掻き分けてまおの姿を認めると、ぎゅう!と抱き締める。

「いつか、迎えにくるからな。約束だぞ?」
「うん。待ってる。」

疑うことを知らないように、にこっと微笑むまお。

「それに、5年経てば僕も大ちゃんと同じところに行くんだよね?」
「そうだな。」

そう・・なのだろうか??
ここから出た人間が一体どこに連れていかれているのか誰も知らない。

「じゃ。また。」
「うん。またね。」


また、明日。とでも言いそうなぐらい明るい笑顔でまおと別れた。





「いつか、本物の空を見に連れていってやるよ。」

記憶の奥底に眠る微かな残像。
これは、誰?・・・一体、どこ??

久しぶりに夢を見た。

あいまいに消えて忘れてしまう夢のような夢ではなく、しっかりとその時交わしたゆびきりげんまんの体温までもよみがえってくるような夢。

「・・・ま・・・お?」

思わず口をついて出た名前に首を傾げる。

「・・・・誰だ?それ。」

俺にとってはこのワークシティに来てからの2年間の記憶が全てだ。
他の連中もみんなそうだし、仕事をする上で何の支障もなければ、幼き日々の思い出など邪魔になるだけだ。
と、成人男子は皆一旦記憶を失う。

合理的で、過去に囚われることなく自由な発想ができるだろ?ということらしい。
はるか昔は子供のころのコンプレックスや家柄によって成人してからの人生までも左右されてしまうような
残酷な時代もあった。
お前たちは幸せな時代に生まれたんだよ。と教えられて疑う余地もなかった。

なのに、「まお。」という誰だか知らない名前をつぶやくだけで胸が締め付けられる。
忘れてはいけない過去があるような気がしてくる。

「・・・なあ。お前、過去って知りたくない?」

精密にプログラミングされた季節のコントロールパネルを操作しながら同僚に話かける。

「・・・別に。そんなの生きていくうえでのお荷物しかならないじゃん。」

何を気味の悪いことを?と言わんばかりの表情で模範解答が返ってくる。

「・・・そっか。そうだよな。」

自分は異端児だ。
きっとどこかでDNA操作を誤ってしまったのだ。

過去が気になる。なんて・・・。

鬱々とした気持ちを抱えながらも、まお。という響きが気になって眠れなかった。