ここは、通称テレビジョン・シティ。

もっとも、わざわざ自分の住んでいる世界を、わざわざ名称で呼ぶ奴はいないが。

環境ホルモンの影響か。
合理主義のひずみか。

世の中から愛という言葉は消えうせ、欲望と快楽だけが支配するようになった。
ヘテロ人口は減り続け、政府がどんなに取り締まっても、ホモ人口が増え続けた。

マーケティングは、合理主義を追い求め、いつしか世界は成人男子住むワークシティと、女性と子どもたちが住むドリームシティに分断されるようになった。

男女の好みの違いに煩わされることなく、対象の限られたマーケティングでは、望めばすぐに実現することが多かった。

お洒落なカフェテリア。
セキュリティーの万全な監視カメラと巡回ロボットのいる公園。
子どもたちは子供だけでコミュニティーを作り、18歳までここで過ごす。

特定の親。というものはなく、コミュニティーに住んでいる女性全員が世話係のようなものだった。


遊戯室の隅でかくれんぼしたり、給食のつまみぐいをして怒られたり。
映像で映された鯉たちに餌をやったり、驚かせたり。

ベッドにもぐってから、こっそりとキスをしたり。

淡い恋ゴコロを抱いて、毎日手を繋いで眠りについた。



「いつか迎えにくるからな。」
「・・・うん。」

大きくなるにつれて、18歳になったらどうなるのだろう。という疑問は沸いて来たけれど、
大人の男の人と接することがなかったからわからなかった。

大人になったら、俺は、まおはどうなるんだろう?
漠然とした不安はあったけれど、大人になればふたたびまおを迎えにくる。
そして、本物の空を一緒に見るんだ。

子どもしかいない空想の世界で生きてきた俺たちは、実現できる夢だと信じて疑わなかった。

「・・・ねえ。博士。ここをでたら、俺たちどうなるの?」
「知らないほうが幸せだし、知ったところで全て忘れるんだよ。」

「・・・まおのことも?」
「多分ね。」

大人の男の人なのに、ドリームシティから唯一行き来できた博士の部屋。
何度も自己再生を繰り返して、人々の記憶からBlue planetを守るためだけに生存し続けているという。

種の保存から外された例外的存在。