その日から、二人の間の視線が柔らかなものになった。
意識しすぎることもなく、視線が合えば、ふっとどちらからともなく微笑みかけるような。
もちろん、学内ではあくまで教師と生徒という立場なので、まおだけトクベツ扱いしたりはしないが。
むしろ、今までのほうが意識しすぎてトクベツに避けてしまっていたかもしれない。
「こらっ。そこ、私語はしないっ!」
ミューティング中に、馬場がまおに向かってコソコソと内緒話をもちかける。
肩を寄せ合った仲むつまじい姿に、以前ならば瞼の裏がかっと焼け付くような嫉妬を覚えただろうが、
今はこうやって二人そろって部活に顔を出せることに安堵する。
「はぁーいっ。」
頭をボリボリかきながら、馬場が間の伸びた返事をする。
彼だって、まおがテニスと一緒にテニスができる。ということはこの上ない幸せなのだろう。
自分にじっと向けられる生徒たちの真剣な眼差し。
外見から始めたかもしれないが、みんなテニスが好き。という気持ちに変わりはない。
全国を目指したい奴もいれば、ボールを追うことがただただ楽しい。という奴もいる。
薙のようにコートに入れなかったとしても、仲間を応援したい。という奴だっている。
なんとなく義務感で引き受けたこの仕事だったけれど、心の鎧を脱いでみれば色んな個性が見えてくる。
自分に向けられる好意も、やんわりと事務的に避けるばかりだったけれど、
自分が恋心という知った今、もう少し彼女たちの気持ちに誠実に返事をしよう。と思えるようになる。
10代の若者というものは、外見だけであっさりと恋に落ちて、気軽に告白をする生き物だと思っていた。
実際、俺によってくる生徒たちは気軽に「先生のこと、好きですっ!」と口にする。
「ありがとー。5年後に同じこと言ってたら、考えるよ。」
などど、返しても「あっ、本気にしてないーっ。」とかって頬を膨らませるだけで、次の日も懲りずに同じ会話を繰り返す。
だから。
まおに気持ちを伝えることすら許されなかったとき、正直焦ったし、落ち込んだし。
・・・反面嬉しかった。
真剣に受け止めようと、一所懸命だったからこその拒絶だったのだ。と抱き締めているうちに伝わってきたから。
視線が合うとか、合わないとか。
今の俺にとっては些細なこと、に思えることでも、10代の若者にとっては泣きじゃくるほど感情を揺さぶられる原因になりえる。
忘れてしまった気持ち。
好き・か嫌い。かが両極端で、好かれていないのなら嫌われているんだろう。と飛躍してしまう。
自分の想定外のことが起きると受け入れきれずに混乱してしまう。
一旦、好き。と自覚したならば、情熱的に愛する。
意識しすぎることもなく、自然になった。と思っているのは俺だけで、実際のところは視線が合う頻度はものすごく高くなった。
馬場とふざけあっているときはいいのだが、まおがじっと熱っぽく見詰めているのを感じる。
たまたま、ふっと視線が合うと、照れくさそうにふふっと微笑んで視線を外すのだが、しばらくするとまたじっと見詰めている。
「・・・お前、わかりやすすぎ。」
すれ違いざまに、主席簿でコツン。と頭を叩いてやった。
どうして気がつかなかったのだろう。
こんなにわかりやすい熱のこもった視線を。
「何考えるのか、わかんない。」
自分で距離を置いているだけ。だと思っていたけれど、本当に俺は何もわかっていなかったのかもな。
急に世界が色を持って動き出したような気がした。
意識しすぎることもなく、視線が合えば、ふっとどちらからともなく微笑みかけるような。
もちろん、学内ではあくまで教師と生徒という立場なので、まおだけトクベツ扱いしたりはしないが。
むしろ、今までのほうが意識しすぎてトクベツに避けてしまっていたかもしれない。
「こらっ。そこ、私語はしないっ!」
ミューティング中に、馬場がまおに向かってコソコソと内緒話をもちかける。
肩を寄せ合った仲むつまじい姿に、以前ならば瞼の裏がかっと焼け付くような嫉妬を覚えただろうが、
今はこうやって二人そろって部活に顔を出せることに安堵する。
「はぁーいっ。」
頭をボリボリかきながら、馬場が間の伸びた返事をする。
彼だって、まおがテニスと一緒にテニスができる。ということはこの上ない幸せなのだろう。
自分にじっと向けられる生徒たちの真剣な眼差し。
外見から始めたかもしれないが、みんなテニスが好き。という気持ちに変わりはない。
全国を目指したい奴もいれば、ボールを追うことがただただ楽しい。という奴もいる。
薙のようにコートに入れなかったとしても、仲間を応援したい。という奴だっている。
なんとなく義務感で引き受けたこの仕事だったけれど、心の鎧を脱いでみれば色んな個性が見えてくる。
自分に向けられる好意も、やんわりと事務的に避けるばかりだったけれど、
自分が恋心という知った今、もう少し彼女たちの気持ちに誠実に返事をしよう。と思えるようになる。
10代の若者というものは、外見だけであっさりと恋に落ちて、気軽に告白をする生き物だと思っていた。
実際、俺によってくる生徒たちは気軽に「先生のこと、好きですっ!」と口にする。
「ありがとー。5年後に同じこと言ってたら、考えるよ。」
などど、返しても「あっ、本気にしてないーっ。」とかって頬を膨らませるだけで、次の日も懲りずに同じ会話を繰り返す。
だから。
まおに気持ちを伝えることすら許されなかったとき、正直焦ったし、落ち込んだし。
・・・反面嬉しかった。
真剣に受け止めようと、一所懸命だったからこその拒絶だったのだ。と抱き締めているうちに伝わってきたから。
視線が合うとか、合わないとか。
今の俺にとっては些細なこと、に思えることでも、10代の若者にとっては泣きじゃくるほど感情を揺さぶられる原因になりえる。
忘れてしまった気持ち。
好き・か嫌い。かが両極端で、好かれていないのなら嫌われているんだろう。と飛躍してしまう。
自分の想定外のことが起きると受け入れきれずに混乱してしまう。
一旦、好き。と自覚したならば、情熱的に愛する。
意識しすぎることもなく、自然になった。と思っているのは俺だけで、実際のところは視線が合う頻度はものすごく高くなった。
馬場とふざけあっているときはいいのだが、まおがじっと熱っぽく見詰めているのを感じる。
たまたま、ふっと視線が合うと、照れくさそうにふふっと微笑んで視線を外すのだが、しばらくするとまたじっと見詰めている。
「・・・お前、わかりやすすぎ。」
すれ違いざまに、主席簿でコツン。と頭を叩いてやった。
どうして気がつかなかったのだろう。
こんなにわかりやすい熱のこもった視線を。
「何考えるのか、わかんない。」
自分で距離を置いているだけ。だと思っていたけれど、本当に俺は何もわかっていなかったのかもな。
急に世界が色を持って動き出したような気がした。