「・・・なあ。浜尾の住所わかるか?」
ぐるぐると悩んだ末に、結局タッキーにそう持ちかけていた。
教師として、担任でもないのにそこまでのプライバシーに踏み込んでいいものか?
という迷いもあったが、それ以上に俺個人として何か力になりたい。という気持ちのほうが強かった。
「・・・わかるけど。・・・ほら。」
タッキーが名簿の束をぽん!と渡してくる。
「行動する気になったんだ?」
「・・・まあな。」
さらさらと住所を写す手元を見詰めながら掛けられた言葉に、励ましの響きさえあった。
「自分に自信持てよ。」
「・・・ああ。」
交わされた言葉は少ないけれど、緊張をほぐしてくれた。
まおの自宅の前で、一刻・一刻と時間が過ぎてゆくのを心臓が破裂しそうな思いで待つ。
出会ったらなんと声を掛けよう。
「お母さんの具合どう?」
・・・なんて、聞いてしまったら、馬場との約束を破ることになるだうか?
彼のプライドを傷つけることになるだろうか??
何本目か、すでにわからなくなったタバコにふたたび火をつける。
「・・・センセ??どうしたんですか?」
あたりがすっかり夕闇に包まれるころ、唐突に声をかけられる。
「あちちっ!」
驚いて落としてしまったタバコの灰が、靴を焦がす。
「わわっ。大丈夫ですか??冷やしますかっ!?」
肝心なことは、何も話せていないというのに、アタフタと玄関の鍵を開けてくれたまおの背中に勢いでついていってしまった。
風呂場で、冷たいシャワーを当ててくれる。
大丈夫かなあ?跡にならないかなあ・・・。などと、つぶやきながら熱心に俺の足を見詰めている。
「・・・すまない。迷惑かけて。」
シャワーのヘッドを握るまおの手が、随分と荒れていることに気がつく。
一人で家事をこなして、きちんと学校にも通って勉強もして、おまけに母の介護まで。
運動神経は抜群だけれど、細い肩をしている。
華奢なその身体に、一体どれだけのものを抱えていると言うのか。
誰にも愚痴をこぼさず、自分一人で抱えている。
そう思うと、抱き締めずにはいられなかった。
「・・・ちょ。センセ?」
驚いたように、びくっとまおが身をすくめる。
・・・当たり前だ。教師にいきなり抱き締められたら、誰だってビビルだろう。
「一人で抱えこむなよ。」
「・・・え?」
「お前一人で抱えこむな。もっと頼ってくれ。」
もっと先に言わなければいけないことがあるだろう?
これでは、何を言われているのかわからないだろうに。
そう思うのに、上手く文章が組み立てられない。
ただ、親友である馬場にさえも頼らずに、自分一人で頑張ろうとしている姿が切なくて。
ぎゅうっと抱き締める腕に力をこめるしかできなかった。
「・・・ど、して?」
ふるふると腕の中でまおが肩を震わせる。
「ど、して?何をしにきたの・・・??」
「・・・え?」
腕の中から見上げてきたまおは、俺のことを頼るどころかきっと責めるようなキツイ視線を投げかけてきていた。
「わざわざ、どうして部活さぼってるのか詮索しにきたの?俺、誰かに迷惑かけた??
俺がいないと、勝てない。とかって説得しにきたの??そうだよね。せっかくのチャンスなんだもんね。
うちの学校のテニス部が地区大会突破する・・・・。」
こぼれそうになる涙を必死でこらえながら、一気にまくしたてるまお。
「・・・何、言って・・・?」
「先生、俺のこと嫌いなんでしょ?でも、戦力だから、仕方なく面倒見てるんでしょ?」
・・・ど。して、そうなるんだ・・・??
これ以上は深追いしないでくれ。とばかりに拒絶の色を宿した瞳。
どうしようもなく惹かれていたくせに、深入りすることを恐れていた罰だとでも言うのだろうか?
ぐるぐると悩んだ末に、結局タッキーにそう持ちかけていた。
教師として、担任でもないのにそこまでのプライバシーに踏み込んでいいものか?
という迷いもあったが、それ以上に俺個人として何か力になりたい。という気持ちのほうが強かった。
「・・・わかるけど。・・・ほら。」
タッキーが名簿の束をぽん!と渡してくる。
「行動する気になったんだ?」
「・・・まあな。」
さらさらと住所を写す手元を見詰めながら掛けられた言葉に、励ましの響きさえあった。
「自分に自信持てよ。」
「・・・ああ。」
交わされた言葉は少ないけれど、緊張をほぐしてくれた。
まおの自宅の前で、一刻・一刻と時間が過ぎてゆくのを心臓が破裂しそうな思いで待つ。
出会ったらなんと声を掛けよう。
「お母さんの具合どう?」
・・・なんて、聞いてしまったら、馬場との約束を破ることになるだうか?
彼のプライドを傷つけることになるだろうか??
何本目か、すでにわからなくなったタバコにふたたび火をつける。
「・・・センセ??どうしたんですか?」
あたりがすっかり夕闇に包まれるころ、唐突に声をかけられる。
「あちちっ!」
驚いて落としてしまったタバコの灰が、靴を焦がす。
「わわっ。大丈夫ですか??冷やしますかっ!?」
肝心なことは、何も話せていないというのに、アタフタと玄関の鍵を開けてくれたまおの背中に勢いでついていってしまった。
風呂場で、冷たいシャワーを当ててくれる。
大丈夫かなあ?跡にならないかなあ・・・。などと、つぶやきながら熱心に俺の足を見詰めている。
「・・・すまない。迷惑かけて。」
シャワーのヘッドを握るまおの手が、随分と荒れていることに気がつく。
一人で家事をこなして、きちんと学校にも通って勉強もして、おまけに母の介護まで。
運動神経は抜群だけれど、細い肩をしている。
華奢なその身体に、一体どれだけのものを抱えていると言うのか。
誰にも愚痴をこぼさず、自分一人で抱えている。
そう思うと、抱き締めずにはいられなかった。
「・・・ちょ。センセ?」
驚いたように、びくっとまおが身をすくめる。
・・・当たり前だ。教師にいきなり抱き締められたら、誰だってビビルだろう。
「一人で抱えこむなよ。」
「・・・え?」
「お前一人で抱えこむな。もっと頼ってくれ。」
もっと先に言わなければいけないことがあるだろう?
これでは、何を言われているのかわからないだろうに。
そう思うのに、上手く文章が組み立てられない。
ただ、親友である馬場にさえも頼らずに、自分一人で頑張ろうとしている姿が切なくて。
ぎゅうっと抱き締める腕に力をこめるしかできなかった。
「・・・ど、して?」
ふるふると腕の中でまおが肩を震わせる。
「ど、して?何をしにきたの・・・??」
「・・・え?」
腕の中から見上げてきたまおは、俺のことを頼るどころかきっと責めるようなキツイ視線を投げかけてきていた。
「わざわざ、どうして部活さぼってるのか詮索しにきたの?俺、誰かに迷惑かけた??
俺がいないと、勝てない。とかって説得しにきたの??そうだよね。せっかくのチャンスなんだもんね。
うちの学校のテニス部が地区大会突破する・・・・。」
こぼれそうになる涙を必死でこらえながら、一気にまくしたてるまお。
「・・・何、言って・・・?」
「先生、俺のこと嫌いなんでしょ?でも、戦力だから、仕方なく面倒見てるんでしょ?」
・・・ど。して、そうなるんだ・・・??
これ以上は深追いしないでくれ。とばかりに拒絶の色を宿した瞳。
どうしようもなく惹かれていたくせに、深入りすることを恐れていた罰だとでも言うのだろうか?