男だし、未成年だし、教え子だし。
まあ、色々と問題は山積みなわけだが。
「それでも、好きな感情を止められないぐらい、深入りしたい。って思える相手ができてよかったじゃない?」
と、肯定されて心が軽くなった。

前向きに検討しよう。

そう、思っていたのに、まおは部活を休みがちになった。

本人の体調不良か?と最初は思っていたが、学校には元気に登校しきているらしい。
職員室から外を眺めると、相変わらず仲良く馬場と並んで校門をくぐってくる光景が目に入る。

「いいよなあ。お前は。」

幼馴染というだけで、まおの隣に並ぶ権利があるなんて。

「・・・ま、俺もかつてはそんな時代もあったけどな。」

その間に割って入ろうとするのだから。
どれだけ労力がいることかもわかっている。

男同士の友情というものは、なかなかどうして、一筋縄ではいかないものだ。
馬場が気がついているかどうかは別として。
まおを見詰める視線は、他の友人と過ごしている時とは、明らかに違う。

まおだって、馬場といるときは心を許しきっているような、安心した顔を見せる。

「・・・さて、どうしたものかな・・・。」

己の感情に気がついたことろで、どう動けばいいのかがわからない。
授業中にトクベツ扱いするわけにもいかず、唯一の接点の部活まで休みがち。となれば・・・。

「試合前なのになあ。」

このままでは、まおをレギュラーから外すしかない。

いくら、お気楽部員が多い。と言っても欠席がちな奴がレギュラーの座を射止めるとなると、不満も多いだろう。

「・・となると、馬場も。かな・・・。」

センスだけは抜群にあるのだから、シングルでも十分に通用すると思うのだが、まおと一緒でないと嫌だ。と言い切る。

「・・・まあ、お前の言いたいこともわかるけどな。」

一人っきりで戦うことには意味がないのだ。と思い込んでいたあの頃。
でも、いつかは別の道を選ぶその日がきっとくる。

背中合わせでお互いを信じて敵と対峙していても、いざ。という時には結局は一人で戦うしかない。


「・・・と、今日も浜尾は休みか?」

出席簿にチェックを入れながら、ボードに目を走らせると、もう3日間も連続チェックが入っていた。


まおがいないせいで、物足りなさを感じるコートに指示を出しながら一日を終える。


「・・・なあ。馬場。浜尾のこと、お前、何か聞いてるか?」

グラウンドの整備を黙々とこなしている馬場に声をかける。

「・・・今、大切な時なんで。多分、一週間ぐらい休みになりますよ。」
「大切なとき。って・・・?試合前だから??」

試合前だから、トクベツメニューで山篭りでもしているというのだろうか。
そういう奇抜なことをするタイプには見えないが。

「本人は、わかった上で。だから仕方ないですよね。まお、レギュラー外されるんでしょ?」
「あー・・・。理由如何によっては。」

ふぅ。と小さく馬場がため息をつく。


「トクベツ扱いは嫌だから、ってまおは話たがらないけど。本当は進学のとき、テニスの推薦で、って声もかかってたんです。でも、父が海外に単身赴任だし、兄は大学生で家を出てるし、病気がちなお母さん一人にするのは心配だから。って通えるココを選んだんだけど。
お母さんが入院してから、毎日身の回りの世話とかしに病院通ってるから。
まおもあの性格だから、お母さんのことほったらかしにできないんじゃないかな。
自分のレギュラーの座がかかってるって言うのになあ・・・。」

事情が事情なんだから。とぶつくさ不満そうに文句を言う。

「あっ。でも、まおは誰にでも事情はあるから。って話たがらないから、聞かなかったことにしておいてくださいね。
でも、さぼりだ。って思われるのも癪なんで。」

「・・・そうか。わかった。」

わかったところで、何もできないのだけれど。

責任感が強いがゆえに、自分を犠牲にしてこの高校を選んだまお。
部員の誰よりも、テニスが大好きで、才能もあって、キラキラと瞳を輝かせてボールを追ってた。

何か力になりたい。
・・・でも、ただの教師である俺に何ができるんだろう??
しても、よいものなのだろう・・・。

高校生一人の肩に乗せるには、重い荷物を負担してやれないだろうか。

誰もいなくなった職員室で、一人いつまでも悩むのだった。