「浮気すんなよ。」
「そっちこそ。」

空港のゲートをくぐる直前で、こつん。と拳を合わせる。


いよいよ、あの改札を抜けてしまえば、まおは飛び立ってしまう。

なのに、不思議なほど心は晴れやかで落ち着いていた。


それは、まおも同じだったようで、いっそ清清しいほどにすっきりと晴れやかな顔をしていた。


「泣いちゃうかと思ってた。」
「俺も。」


迫り来る別れの日に心を揺らした。
漠然と想像のつかない未来に怯えていた。


何度も、何度も抱き合って変わらない愛を確かめ合った。


だけど、いざ。幕が開いてしまうと、高揚感しか感じないように。


寂しさよりも未来に対する期待感のような胸の高鳴りに包まれていて。


コツン。と合わせた拳をおろすと同時に、お互いに視線があって、ぷっ。と噴出した。


「そんなこと、思ってないくせに。」
「まおだって。」


信頼しているからこそ、叩き合える軽口。

信じているからこそ、力強く見送れる背中。


神様が、上手に時間を操作したのではないか。と思えてくる。


今までも、同じ時期に仕事が忙しくなって、寂しい。と感じる暇がなかった。
お互いの舞台を見にいけない。という意味では残念ではあったけれど、
忙しい恋人をただ家でじっと待っているとロクなことを考えないものだろう。

反対に、今回は留学前に奇跡的にたっぷりのオフが取れた。

何でもない日常を飽きるほどに、ゆっくりと楽しみ、会話を尽くし、肌を重ねあう。

忙しさの中で忘れきたパズルのピースを埋めるように、なんとなくかみ合っていた部分。というものを、
しっかりと見詰めなおして、ぴったりとはめ込む。

触れ合った指先から、お互いの愛情を感じとりながら息をする。


そんな満ち足りた時間が過ごせたから。


そして、今。


まおは、新しい世界への期待で胸を膨らませ。

俺は、またひとつ大きなチャンスへと向かって歩みだす。


どちらかだけが、突っ走るのではなく。
お互いに更なる高みへと目指して、旅立つ。


「じゃあな。また。」
「うん。またね。」


まるで、また明日。というような軽い挨拶を交わして、ゲートに消えてゆくまおの背中を見送った。


「さて。がんばりますか。」


たっぷりとエネルギーを補充できたから。


次は、形にする番だ。


新しい舞台への期待を胸に、踵を返した足取りは、爽やかな秋晴れの中、軽やかに響いた。



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すっごく前向きバージョンです^^

私の中では、どれも真実なんだけどね~~WW

でも、やっぱりこういう旅立ちだったら、晴れやかに見送れるかな??