薙が登校できるようになるころには、すっかりテニス部どころか、ラケットにも指一本触れなくなった。

周りの連中も、それとなく噂を聞きつけて、テニスと名のつく話題を避けるようにしてくれていた。


久しぶりに会った薙は、すっかり目の腫れも引いて、言われなければわからない。ぐらいにまで回復していた。
だが、ちょっとした拍子に壁にぶつかったりするところをみると、やっぱり左右差のある視力で多少のふらつきが残るのだろう。

クラスの違う俺たちは、昼休みのたびに俺が弁当をもってランチを誘いにいく。のが定番だった。

けれど、あんな別れ方をしてしまったから、気まずくて気になりながらも自分から誘いにいくことができなかった。


「あ。大輔。久しぶり。おはよう。」
「・・・お。はよ・・・。」


廊下ですれ違っても、俺達の間には何もなかったよね。
といわんばかりに穏やかな微笑を浮かべて挨拶をしてくれる。

それが、息苦かった。

お前のせいじゃないから、気にするな。と。許してくれてるようにも、
最初から親友でもなかった。と必要以上に感情をやりとりするのを避けられているようにも感じられて・・・。


結局強くなりきれなかった俺は、薙から逃げるようにして、約束していた大学ではなく、うんと遠い北海道の大学にすすむことにした。

俺のことを何も知らない地で、新しい自分をやり直したい。

今から思えば、自分のことしか考えていない浅はかな考えだったと思う。