ナースステーションまで行って、「すみません。一緒に草刈薙という付き添いがきませんでしたか?」
とたずねてみる。

「ああ・・・。えっと・・・。」

みんな知っているのに、知らないふりをしている。というように、落ち着きなく視線を泳がしている。

ざわつきが、ドクドクとした胸騒ぎに変わり、痛む肘を押さえながら病院中を闇雲に歩き回る。


ドキン。

やっと見つけた薙の痕跡は、別館の個室に張られたネームプレートだった。


震える指先を叱責しながら、おそるおそる扉を開ける。


「・・・薙?」
「あ。大輔。目が覚めたんだ?」

空を彷徨うように、視線を泳がせてからこちらを向いた薙の左目には、ぐるぐると包帯が巻かれていた。


「お前、目・・・?」
「だっさいよなー。大輔が俺が。って言ってくれてたのに、いっぱいいっぱいで聞こえてなかったんだよ。
条件反射でボール追いかけちゃって。」

「大丈夫なのか?」
「うん。平気。眼球に傷ついちゃったから、視力は落ちるだろうけど、日常生活には支障はないだろう。って。
それより、お前のほうこそ、肘は大丈夫なのか?」

「ああ。リハビリ次第で元通りテニスできるようになるっ・・て・・・。」
「そっか。よかった。」

ほっと息をつく薙が何だか急に遠く感じられた。

「ほら。もう面会時間過ぎちゃってるよ?ベッドに戻ってないと看護師さん心配するんじゃない?」
「あ?ああ・・・。」

ひとまず元気そうな薙の顔をみれてほっとした。
したけれど・・・。安心しきれない違和感を抱えたまま、病室に戻った。