あれは、高校3年生の引退試合のとき。
幼馴染であり、親友である薙とダブルスを組んでいた俺達は、史上最強とも言われる息のあったコンビで、
全国大会目前まで上り詰めていた。
通っていた高校史上初の快挙。ということもあり、否応でも校内外から注目され、期待されていた。
俺たちは、期待に答えるだけの自信もあったし、周りの視線が心地よくさえもあった。
たった一人で戦うシングルならば、プレッシャーと感じたかもしれないソレは、
二人で戦うことでより一層絆が強くなり、ともに戦うという闘志にすりかえられた。
今でも、鮮明に浮かぶ、その瞬間。
タイブレーク6-6と追い詰められ、全国へ行けるかどうか。の一点争いにもつれこんだ一球。
前衛と後衛の隙間を見事に突いた位置に落とされた球に、「俺がっ!!」と叫びながら、無理な体勢から、飛び込んだ。
体力の限界だった足がもつれ、地面に倒れこむ。
肘を思いっきり地面に打ちつけ、ビリリっ。と腕に電撃が走ったような痛みが走る。
前から走ってきた薙の姿が視界いっぱいに広がったところで意識が途切れた。
目が覚めたら、真っ白い壁が埋めつくす病室のベッドに横たわっていた。
左腕に大袈裟なまでにギブスが巻かれ、あちこちにできたかすり傷に包帯が巻いてある。
「どうなったんだろう。試合・・・。」
どうなったも、こうなったも、意識を失うなんて情けない。
あと一歩。というところで棄権負けだろう。
「一緒に全国目指そうな!!」
幼いときからの約束を果たすことができなかった悔しさに、真っ白になるぐらい唇を噛み締める。
「ごめんな。薙・・。」
意識がはっきりしてくると、薙はどうしているんだろう?と気になってくる。
「あ。目が覚めたんだね。痛みで失神してたみたいだから。」
主治医です。と名乗った医師が害のなさそうな穏やかな笑みを浮かべて近寄ってくる。
「思いっきり肘から地面に叩きつけただろう。見事に粉砕骨折していたよ。」
どうりで大袈裟なまでのギブスなわけだ。
「粉砕って・・・。」
「ああ。骨さえ元通りにくっつけば、日常生活には支障はないよ?」
「あの。俺、テニスするんですけど。」
「まあ、あとはリハビリ次第かなあ。機能的な回復よりも、一度痛みを覚えてしまった精神的恐怖のほうが、どこまで回復するか、わからないけどね。」
「そうですか・・。」
がっちりと固定されているせいで痛みは覚えないが、ビリビリと痺れるような違和感に眉を寄せる。
もう一度、薙とコートを走り抜けることができるのだろうか。という不安が心に暗雲を落とす。
「あの。俺とペア組んでた奴は、どこにいるか知りませんか?」
「・・・・さあ。」
視線を泳がせるようにして、さあ。と言ったまま口を紡ぐ医師。
何かを知っているのに、俺には伝えるべきではない。と迷っているような。
「薙に何かあったんですか?」
「私は、担当外だからね。申し訳ないけど、詳しくは知らないんだ。」
そう言うと、困ったように笑って部屋を出ていってしまった。
何かがあったんだ。
ざわ。とした胸騒ぎが確信に変わる。
だって、意識を失った俺のベッドサイドに薙がいないわけがない。
一番に心配して、目が覚めるまでずっと待っていてくれただろう。
ばっ!とシーツをめくって起き上がろうとすると全身のあちこちが痛む。
打撲と擦り傷で、腕以外の箇所もぼろぼろだったけど、薙を探すほうが先決だった。
幼馴染であり、親友である薙とダブルスを組んでいた俺達は、史上最強とも言われる息のあったコンビで、
全国大会目前まで上り詰めていた。
通っていた高校史上初の快挙。ということもあり、否応でも校内外から注目され、期待されていた。
俺たちは、期待に答えるだけの自信もあったし、周りの視線が心地よくさえもあった。
たった一人で戦うシングルならば、プレッシャーと感じたかもしれないソレは、
二人で戦うことでより一層絆が強くなり、ともに戦うという闘志にすりかえられた。
今でも、鮮明に浮かぶ、その瞬間。
タイブレーク6-6と追い詰められ、全国へ行けるかどうか。の一点争いにもつれこんだ一球。
前衛と後衛の隙間を見事に突いた位置に落とされた球に、「俺がっ!!」と叫びながら、無理な体勢から、飛び込んだ。
体力の限界だった足がもつれ、地面に倒れこむ。
肘を思いっきり地面に打ちつけ、ビリリっ。と腕に電撃が走ったような痛みが走る。
前から走ってきた薙の姿が視界いっぱいに広がったところで意識が途切れた。
目が覚めたら、真っ白い壁が埋めつくす病室のベッドに横たわっていた。
左腕に大袈裟なまでにギブスが巻かれ、あちこちにできたかすり傷に包帯が巻いてある。
「どうなったんだろう。試合・・・。」
どうなったも、こうなったも、意識を失うなんて情けない。
あと一歩。というところで棄権負けだろう。
「一緒に全国目指そうな!!」
幼いときからの約束を果たすことができなかった悔しさに、真っ白になるぐらい唇を噛み締める。
「ごめんな。薙・・。」
意識がはっきりしてくると、薙はどうしているんだろう?と気になってくる。
「あ。目が覚めたんだね。痛みで失神してたみたいだから。」
主治医です。と名乗った医師が害のなさそうな穏やかな笑みを浮かべて近寄ってくる。
「思いっきり肘から地面に叩きつけただろう。見事に粉砕骨折していたよ。」
どうりで大袈裟なまでのギブスなわけだ。
「粉砕って・・・。」
「ああ。骨さえ元通りにくっつけば、日常生活には支障はないよ?」
「あの。俺、テニスするんですけど。」
「まあ、あとはリハビリ次第かなあ。機能的な回復よりも、一度痛みを覚えてしまった精神的恐怖のほうが、どこまで回復するか、わからないけどね。」
「そうですか・・。」
がっちりと固定されているせいで痛みは覚えないが、ビリビリと痺れるような違和感に眉を寄せる。
もう一度、薙とコートを走り抜けることができるのだろうか。という不安が心に暗雲を落とす。
「あの。俺とペア組んでた奴は、どこにいるか知りませんか?」
「・・・・さあ。」
視線を泳がせるようにして、さあ。と言ったまま口を紡ぐ医師。
何かを知っているのに、俺には伝えるべきではない。と迷っているような。
「薙に何かあったんですか?」
「私は、担当外だからね。申し訳ないけど、詳しくは知らないんだ。」
そう言うと、困ったように笑って部屋を出ていってしまった。
何かがあったんだ。
ざわ。とした胸騒ぎが確信に変わる。
だって、意識を失った俺のベッドサイドに薙がいないわけがない。
一番に心配して、目が覚めるまでずっと待っていてくれただろう。
ばっ!とシーツをめくって起き上がろうとすると全身のあちこちが痛む。
打撲と擦り傷で、腕以外の箇所もぼろぼろだったけど、薙を探すほうが先決だった。