------ピンポーン。


無機質なチャイムの音が、二人だけの世界を邪魔する。


「・・・あれ?」
「・・・だよな。」

すっかり忘れていた。
引越しの途中だったということを。


「すみませーん。荷物積み終わりましたので、出発しますけど。」


「・・・どうしよう・・・。」
「そりゃあ、キャンセルでしょう??」

・・・・えと。どうしたらいいんだ??

ここまで準備万端にしてもらっておいて、今更キャンセルだなんて・・・。

「それとも、引越ししないといけない理由が他にある?」
「・・・ううんっ。」

戸惑うばかりの俺の肩を押して、彼が立ち上がる。

何やら業者さんと話をしに行ってくれたみたいだ。


暫くすると、ふたたび俺の部屋にダンボールが運び込まれてくる。


二人で並んで、次々に荷物が運び込まれる扉を眺める。


「・・・・せっかく描いてくれた絵、ぼろぼろになっちゃったな。」
「・・・破いちゃって、ごめんなさい・・・。」

「・・・いや。こんなに俺のことを想って描いてくれたんだ。と感動した。」
「・・・・。」

散らばったデッサンを眺めながら、そっと触れられる指先。

きゅ。と想いを込めて握りかえす。


業者さんが帰ってから、二人で床に散らばったデッサンを拾い上げる。

描き溜めていたデッサンで、ごみ袋がいっぱいになる。

「・・・これ、もらってもいいかな?」
「・・・え。でも、ビリビリだから、何描いてるかわからないですよ?」

「・・・いいんだ。お前の気持ちだから・・・。」


ゴミ袋を愛おしそうに抱える渡辺さんの腕に、今までの自分の気持ちが抱き締めてもらっているようだ。


壁には、数枚絵が飾ったままになっている。


「・・・いつでも、本物に会いにおいで?」


ごみ袋を抱えたまま、俺を振り返ってふふっと笑う。


・・・・なんか、なんだか。


すっごく嬉しいけど、恥ずかしいっ!!!


こんなふうにずうっと見詰めていました。って告白しているようなものじゃないか。


「今日は、泊まりにくるだろ?」

「・・・はい・・・・。」


当然のうように、「だろ?」と聞かれて、胸が甘くうずく。


・・・はい・・・・はい・・・はい・・・・。


何度も、心の中で肯定の返事を繰りかえすのだった。