飛び出すように彼の部屋を出て、自分の部屋の扉をバタン!と閉めたところで堰が切れた。

靴をはいたままうずくまる。
ぼろぼろと溢れてくる涙が、玄関にぽたぽたと落ちる。

「・・・嘘だよっ・・・。強がりばっか・・・。」

ただの隣人から知り合いになれただけでも十分だとか。
この恋は実らないかもしれないけど、彼のお陰で成長できたとか。
トクベツな存在になれなくても、友人にはなれるかな?とか・・・・。

全部、嘘だ。


友人として、ケッコンを祝福できるわけがない。
毎朝くれるあの微笑が、他のトクベツなただ一人のひとに向けられるなんて、耐えれるわけがない。

感情のままに告白してしまわなかったのが、せめてもの救いだったかも。


結婚式を挙げたところで、幸せな彼を困らせることになっただろうから。


「・・・馬鹿っ!!!馬鹿っ・・・・・。」


誰に対しての怒りなのかわからない憤りが全身を駆け巡る。


叶わない恋をしてしまった自分へなのか。
彼女さんがいるのに思わせぶりな態度をとった彼へなのか。


違う。


彼は一度も思わせぶりな態度なんてとっていない。


普通に年下のかわいい隣人として接してくれただけだった。


ただ・・・。それだけ・・・・。


それ以上でも、それ以下でもない。


それがまた悲しくて。


新たな涙がぼろぼろと溢れてくる。



涙で霞む視界に、壁一面に飾られた渡辺さんのスケッチが目に入る。


「・・・・こんなものっ。こんなものっ・・・・。」


ほのかな憧れから始まった、半年以上の想い。


憧れ、喜び、諦め、絶望、期待・・・・・。


散らばったスケッチを手当たり次第にビリビリと破いてゆく。


積もり積もった全ての想いを無にするために。



さよなら。さよなら。


渡辺さん・・・。今までの俺・・・・。


ビリビリに破かれたスケッチに埋もれて・・・・・。


放心するしかなかった・・・。



こんなにも自分は弱かったんだ。


彼と出会えたことに感謝して、お礼を言いたい、と思っていたのに。


逃げ出すことしか、できなかった・・・・。