「ううっ。風が冷たくなってきたなあ・・・。」
コートの前を合わせながら、バイトから帰宅する。
かじかむ手で、がちゃがちゃと鍵を回す。
「・・・ああっ!!もうっ。手がかじかんで動かないじゃん!!」
イライラとドアの前で葛藤していると、ふわ。と温かい掌が重ねられた。
ふわ。と鼻先を掠めるコロンの香り。
懐かしいタバコの匂い。
背中に感じる、感じてはいけない体温・・・。
「相変わらず、不器用だなあ。濱尾は。」
「・・・あ。ありがとうございます。」
かちゃ。と掌を重ねたままスムーズに鍵を開けて、すっと離れてゆく。
「寒いな。今日は。」
「・・・そうですね。」
「・・・久しぶりに、一緒にメシ食うか?」
「・・・えっ。いいんですか??」
「寒い日には、人恋しくなるだろ?」
余程、嬉しくてキラキラオーラ全開の表情をしてしまっていたのだろうか。
渡辺さんがクスっと笑って、手に持っていた包みを掲げる。
「お客さんから、特上のお肉いただいたんだ。一人で食べるのも味気ないし。しゃぶしゃぶにでもする?」
「・・・わあっ。嬉しいですっ!!しゃぶしゃぶ大好物ですっ!!」
コンビ二弁当と惣菜メインの俺の食生活。
学生の身分の一人暮らしとしては、そんなに贅沢ができる訳でもなく、外食もほとんどしない。
特上のお肉のしゃぶしゃぶ。
もちろん、それが嬉しかったのは嘘ではないけれど。
たとえ、それが「もやし炒め御ちそうするよ?」だったとしても喜んでついていっただろう。
・・・ま、彼がそんな料理しているところは想像できないけどね。
荷物だけ自分の部屋に置いて、ぱぱっと鏡の前で前髪チェックして、今日食べる予定だったコンビ二弁当を冷蔵庫に入れる。
「・・・明日ぐらいまでなら、もつよな。冬だし。」
実はもう買ってきてしまっているのを、気がつかれなかったのだろう。
気がついていたら、誘われなかったかもしれない。
今日は荷物が多くて、コンビ二の袋が死角になっていて、よかった・・・。
「こんばんわ~~。お邪魔します。」
インターホンを鳴らして、鍵をかけずに待っていてくれたドアを開ける。
「いらっしゃい。」
既にスーツからラフな部屋着に着替えた渡辺さんが、ほかほかと湯気の立つ鍋をテーブルの上に用意してくれている。
「やっぱ、冬は鍋ですよねっ!!」
カセットコンロの炎が揺れ、湯気が視界をぼやかし、今までざわざわと不協和音を奏でていた心が、ほんわかと満たされてゆく。
・・・もしかしたら、あの言葉に深い意味はなかったのかもしれない。
単純に誘う機会がなかっただけで、友人になりたい。ぐらいには思ってくれていたのかもしれない。
「・・・乾杯する?」
「・・・や。今日はやめておきます。」
「・・・そう?ま、アルコールで満腹になったら悲しいもんな。」
「そうですよね。」
アルコールのせいで、自分の感じ方が麻痺していたのかもしれない。
ふわふわとして、理性が緩んでいた自覚もあるから、もしかして失言してしまったのかもしれない。
・・・でも、彼は大人だから、そんなことはなかったことにして、再びこうやって誘ってくれているのかもしれない。
いくら仮説を立てたとことで、どれが正解だなんてわからないけれど。
何も努力しないよりは、マシだ。
美味しい料理と楽しい会話。
努力は実らないこともある。と思いながらも諦め切れなかった俺は、あれから毎日新聞を読んで世間の動向を知るようにしたり、休日には建築関係の本を読みに図書館に通い詰めたりしていた。
「・・・へえ。美大って、建築とかまで関わるんだ?」
「・・・いや。それは完璧な独学で・・・。でも、内装のデザインとかするなら、構造も知っておいたほうがいいですよね。ほら。デザイン重視だけじゃなくて、強度とかも必要でしょうし。」
へーっ。とか、そうなんですね。とか曖昧に相槌を打つだけじゃなくて、彼の声が深くて心地よい。と感じるだけじゃなくて。
彼も俺と会話していて、楽しい。って思って欲しかったから。
少しでも、貴方の位置に追いつきたかったから。
動機はそんなことだったけれど、広告デザインの方面で入った俺だったけれど、すっかり建築関係の本を紐解いているうちに、同じ棚に並んだインテリア関係にすっかり興味を奪われるようになっていたんだ。
彼と出会って、広がった可能性。
きちんとカタチにしていつかお礼がしたかった。
この恋が実るにしても、実らないにしても・・・。
コートの前を合わせながら、バイトから帰宅する。
かじかむ手で、がちゃがちゃと鍵を回す。
「・・・ああっ!!もうっ。手がかじかんで動かないじゃん!!」
イライラとドアの前で葛藤していると、ふわ。と温かい掌が重ねられた。
ふわ。と鼻先を掠めるコロンの香り。
懐かしいタバコの匂い。
背中に感じる、感じてはいけない体温・・・。
「相変わらず、不器用だなあ。濱尾は。」
「・・・あ。ありがとうございます。」
かちゃ。と掌を重ねたままスムーズに鍵を開けて、すっと離れてゆく。
「寒いな。今日は。」
「・・・そうですね。」
「・・・久しぶりに、一緒にメシ食うか?」
「・・・えっ。いいんですか??」
「寒い日には、人恋しくなるだろ?」
余程、嬉しくてキラキラオーラ全開の表情をしてしまっていたのだろうか。
渡辺さんがクスっと笑って、手に持っていた包みを掲げる。
「お客さんから、特上のお肉いただいたんだ。一人で食べるのも味気ないし。しゃぶしゃぶにでもする?」
「・・・わあっ。嬉しいですっ!!しゃぶしゃぶ大好物ですっ!!」
コンビ二弁当と惣菜メインの俺の食生活。
学生の身分の一人暮らしとしては、そんなに贅沢ができる訳でもなく、外食もほとんどしない。
特上のお肉のしゃぶしゃぶ。
もちろん、それが嬉しかったのは嘘ではないけれど。
たとえ、それが「もやし炒め御ちそうするよ?」だったとしても喜んでついていっただろう。
・・・ま、彼がそんな料理しているところは想像できないけどね。
荷物だけ自分の部屋に置いて、ぱぱっと鏡の前で前髪チェックして、今日食べる予定だったコンビ二弁当を冷蔵庫に入れる。
「・・・明日ぐらいまでなら、もつよな。冬だし。」
実はもう買ってきてしまっているのを、気がつかれなかったのだろう。
気がついていたら、誘われなかったかもしれない。
今日は荷物が多くて、コンビ二の袋が死角になっていて、よかった・・・。
「こんばんわ~~。お邪魔します。」
インターホンを鳴らして、鍵をかけずに待っていてくれたドアを開ける。
「いらっしゃい。」
既にスーツからラフな部屋着に着替えた渡辺さんが、ほかほかと湯気の立つ鍋をテーブルの上に用意してくれている。
「やっぱ、冬は鍋ですよねっ!!」
カセットコンロの炎が揺れ、湯気が視界をぼやかし、今までざわざわと不協和音を奏でていた心が、ほんわかと満たされてゆく。
・・・もしかしたら、あの言葉に深い意味はなかったのかもしれない。
単純に誘う機会がなかっただけで、友人になりたい。ぐらいには思ってくれていたのかもしれない。
「・・・乾杯する?」
「・・・や。今日はやめておきます。」
「・・・そう?ま、アルコールで満腹になったら悲しいもんな。」
「そうですよね。」
アルコールのせいで、自分の感じ方が麻痺していたのかもしれない。
ふわふわとして、理性が緩んでいた自覚もあるから、もしかして失言してしまったのかもしれない。
・・・でも、彼は大人だから、そんなことはなかったことにして、再びこうやって誘ってくれているのかもしれない。
いくら仮説を立てたとことで、どれが正解だなんてわからないけれど。
何も努力しないよりは、マシだ。
美味しい料理と楽しい会話。
努力は実らないこともある。と思いながらも諦め切れなかった俺は、あれから毎日新聞を読んで世間の動向を知るようにしたり、休日には建築関係の本を読みに図書館に通い詰めたりしていた。
「・・・へえ。美大って、建築とかまで関わるんだ?」
「・・・いや。それは完璧な独学で・・・。でも、内装のデザインとかするなら、構造も知っておいたほうがいいですよね。ほら。デザイン重視だけじゃなくて、強度とかも必要でしょうし。」
へーっ。とか、そうなんですね。とか曖昧に相槌を打つだけじゃなくて、彼の声が深くて心地よい。と感じるだけじゃなくて。
彼も俺と会話していて、楽しい。って思って欲しかったから。
少しでも、貴方の位置に追いつきたかったから。
動機はそんなことだったけれど、広告デザインの方面で入った俺だったけれど、すっかり建築関係の本を紐解いているうちに、同じ棚に並んだインテリア関係にすっかり興味を奪われるようになっていたんだ。
彼と出会って、広がった可能性。
きちんとカタチにしていつかお礼がしたかった。
この恋が実るにしても、実らないにしても・・・。