季節はめぐる。

何事もなかったかのように。

毎朝、顔を合わせて、社交辞令のような挨拶を交わす。
相変わらず、優しい包み込むような笑顔の渡辺さんは、本心がどこにあるのかわからない。

でも、もう一度勇気を出して、理由を作って部屋を尋ねてゆく勇気がなかった。

惹かれる気持ちは止められない。
でも、嫌われたりうっとおしく思われるのはもっと嫌だ。

彼が教えてくれたこと。

現状に文句を言わず、しっかりと未来をみつめていれば、どんなカタチでも必ず道は開ける。
・・・でも、恋に関しては信じていたって、必ず実るとは限らない・・・。

今まで悪くはない。むしろ、美人だ。カッコいいともてはやされるルックスのせいで恋に不自由したことはなかった。
残念なことに、外見で近寄ってきた女の子が、一緒に遊んでみるとつまんない、って長続きしないことが多かったのだけれど・・・。

ルックスがいい。というのは同性である渡辺さんが俺に惹かれる要素にはならないだろうし。
世間知らずの子どもと話していても、何も楽しいことはないだろうし。
俺にとってメリットはたくさんあっても、彼にとって俺と過ごすことに何のメリットがあるんだろう??

一人になって考え始めると、やっぱり隣だから優しくしてくれたんだな。
としか思えなくなってきた。


毎朝、「おはよ。」と言ってくれる彼の笑顔を思い浮べて、今日もクロッキー帳を開く。


この笑顔は俺に向けられたもの。
もしかしたら、他の誰かにも向けられているかもしれないけど、この瞬間は俺だけの笑顔・・・。


飾りきれなかったスケッチが、部屋の隅に山積みになってゆく。

この部屋で共に過ごした感情は、きっといつか懐かしく思える日がくる。と信じて。


一枚、一枚に込められた彼への想い。

届ける勇気のない自分の臆病さのように思える。


・・・それでも、せっかく知り合いに昇格できた今の関係を壊すのが怖かった。