ついつい勧められるがままに次々と缶を開けてしまった。

あははっ。と屈託なく笑う渡辺さんと話しているうちに、ますます彼のことが好きになる。
ころころと変化する豊かな表情にひきつけられる。

「まじっ。それ、最悪じゃん。」
「ですよねーっ。やりかけの課題の上で寝落ちなんて・・・。」

「よだれの染みが、またアートになったりしないのか?」
「失礼なっ。よだれなんて垂らしませんよ~~。ただ、ほっぺたに絵の具がべったりついてしまって落とすのに苦労したぐらいで。」

「へえ。その綺麗な顔が台無しだな。」
「そんなっ。綺麗だなんてっ。渡辺さんのほうが、よっぽどカッコいいです。」


気さくに話を聞いてくれて、居心地がよくて・・・・。
アルコールのせいもあるのか、ふわふわと夢のような時間を過ごす。


クーラーが効いているのに、ほろ酔い気分だからか、彼と過ごせる時間に舞いあがっているからか、
ふわふわと地に足がついていないみたいだ。
カラダの内側から火照ってきて、暑い・・・・。


急に、ふっと声のトーンを落とした渡辺さんが

「もう、そろそろ自分の部屋に帰れよ。」

と俺から視線を外して言う。


・・・・あれ?なんか変なこと言っちゃったのかな・・・。


ちょっと酔いが回って砕けすぎたのかもしれない。
9歳も年上の人に向かって、失礼な話方をしてしまったのかもしれない。


調子に乗って、べらべらと話してしまったけれど・・・。


踏み込んではいけない部分に踏み込んでしまったのかもしれない。


「・・・そうですね。いつまでもいられたら、迷惑ですよね。」


一人で舞いあがっていたけれど、明日も彼は仕事で、俺は学校なのだ。

もしかしたら、俺に向けてくれる笑顔はトクベツなのかも、という淡い期待をしていたけれど。

営業の仕事ならば、邪険にできない。というのが身に沁みているのかもしれない。
きっと誰とでも、こんなふうに気さくに話して相手の心を開くのが得意なんだ・・・。


「・・・いや。迷惑な訳じゃないけど、明日に響くだろ?」


正当な理由を言ってくれるけれど、俺の心はざわざわと雑音を立てていた。