自分の部屋に帰ったら、O時を過ぎているというのに、眠気がやってこない。

バイトをこなして、課題に取り組んで、カラダも精神もへとへとのはずなのに、ついさっきまで隣の部屋で渡辺さんと話をしていたのだ。と思うとドキドキが止まらない。

シーツに包まって、じいいっと、ベッドサイドの白い壁を見詰める。

彼の部屋のベッドは、この壁のすぐ隣にあった。

もう彼もベッドに入っているだろうか??
この壁の向こうで、すやすやと寝息を立てているのだろうか??
こちらを向いているのだろうか・・・。

ふと、壁越しに渡辺さんの寝顔が見えるような気がして、かあぁっ。と頬が熱くなる。

どっち向いて、寝てるんだろー・・・・。


今までは漠然と、何をしてるんだろう?ぐらいでしかなかったのに、部屋を実際に見てしまうと、
リアルに彼の息遣いを感じてしまう。

「だって、本当に生活してるんだもんなー・・・。」


ごろん。と仰向けに寝返りを打って、天井を見詰めると、今度は腕まくりされたシャツから覗く逞しい腕だとか、捲り上げたスラックスから覗くきゅ。と引き締まった足首だとかを思い出してしまう。

「・・・ううっ。眠れない・・・・。」

頭をいっぱいに締める渡辺さんの色んな表情や仕草やパーツ。


もそもそ、とベッドから這い出してきてクロッキー帳を開く。

まるで写真のネガのように鮮明に焼きついた彼の笑顔や仕草は、目の前に彼がいなくても容易に鉛筆を走らせることができる。


何枚も、何枚も描いてはページを破り床に散らばしてゆく。
床一面に広がった彼の表情・仕草・美しい指先・触れたくなるような筋ばった筋肉・・・。


チチチッ。


小鳥のさえずりで目が覚める。


気がつけば、一面の彼をデッサンしたクロッキー用紙にうずもれるようにして、床で寝てしまっていた。


「夢、じゃなかったんだよなー・・・。」

一枚、一枚丁寧に拾い集めながら、気に入ったモノを壁にピンで留めてゆく。


ふわ。とおれを見詰めて微笑んでいる表情。

繊細な動きで硝子の器を扱う指先。

風呂上りのラフな感じで、洗いざらしの髪が額にかかる色っぽい表情。


寝不足でちょっと瞼は重いけれど、心は不思議なほどに満たされていた。