「先に入ってきたら??」
「ややや。そんなとんでもないっ。借りる上に一番風呂だなんて気を遣います。」

「・・・それに、渡辺さん足濡れてるし。・・・・あ。俺、絵の具でベタベタだし・・・。お湯汚しちゃいそうなんで。」

この暑さの中帰ってきたのは渡辺さんも同じ。
涼しそうな顔をしているけれど、きっと一刻も早く汗を流したいのは一緒だろう。

「じゃあ、遠慮なく。」

ぱさっ。ぱさっ。とクローゼットから部屋着とタオルを取り出して腕にかける渡辺さん。
予想通り、プライベートな身のこなしも優雅で無駄がない。


はあああ・・・。緊張した。
普通に話ししているだけなのに、どうしてこんなに緊張するのだろう。

ぱふん。と脱力してソファに寝転んだところで、
バスルームに消えたはずの渡辺さんがひょいっと顔を出す。


「・・・あ。テキトーにテレビとかつけてていいからな。」
「わああっ!!!・・・あっ。はいっ!!!ありがとうございます。」

寝転んだスピートの倍の威力でがばあっ!!と起き上がり背筋をぴんっ!!と伸ばす。


気持ちは嬉しいけど・・・。
テレビみてくつろぐほどの余裕はありません・・・。


でも、せっかく気を遣っていただいたのだし。
と思い、テーブルの上に置いてあったリモコンで電源を入れる。

映った画面はDVDを見る入力モードで、聞いたことのない洋画のタイトルが映っていた。

「・・・映画、好きなのかな?」


本当に何ひとつ、彼のことは知らないのだ。


ゆっくりと部屋を見渡すと、すっきりとしたインテリアの中にも、ところどころに個性的なアイテムの光る落ちついているのにアソビゴコロがある空間で。

もしかしたら、完璧に見える外見の下ではお茶目な一面もあるのかも、なんて思った。


決して近寄りがたいオーラを出しているわけではないのだけれど。
勝手に俺が完璧で、手の届かない人。と決め付けて壁を作っていたのかもしれない。と・・・。


だって、隣のよしみ。ってだけでこんな時間に風呂を貸してくれるなんて、よっぽど世話好きか、優しい人なんだよな・・・。


本当は、渡辺さんだって、一人暮らしを寂しく思っているのかもしれない。

人との触れ合いを恋しく思っているのかもしれない。


無機質な世界に囲まれているから、癒されたい。ってさっきも言ってたじゃないか。


恋人になりたい。とかそんな欲ばったことは言わないけれど。
もしかしたら、トクベツな友人になるぐらいの望みは・・・・ある??

かな・・・。