「はあぁ・・・。今頃、何してるのかな・・・。」


学校について、机に荷物をどさり。とおいて、突っ伏す。

同じ時間に家を出て、追いかけるように駅まで一緒に行って。
(と、言っても一方的についていってるだけだけど)

そこからは、逆方向の電車に乗ってしまうから、彼がどこで何をしているかも知らない。



「大きなため息ついちゃって・・・。恋わずらい?」

突然、明るいトーンの声とともに、小麦色に焼けた指先が視界に入る。
視線を上げると、この学校でできた気さくな友人の一人、島津龍一が机の端に腰掛けて僕を見下ろしていた。

「朝から大きなため息ついちゃって。うっとおしいったらありゃしない。・・・お兄さんに話してごらん?百戦錬磨の達人が聞いてあげるよ?」

好奇心100%うきうきの顔が、ドアップになる。


百戦錬磨。って、お前彼女ほしーっ。てずっと言ってるじゃん。
明るい髪色で、それなりに容姿も整っていて、悪いやつではないのだが、どうも軽薄な印象を与えてしまうこの話方が受けないらしい。

テンションが高すぎるのか、合コンとかしても、自分が楽しんでしまって盛り上げ役に徹して、自分をアピールするのを忘れるタイプ。

彼女欲しい。が口癖のくせに、真剣に交際相手を探しているふうでもなく、こうやって人の世話を焼いているのをよく見かけるのをみると、案外そのほうが性にあってるのかもしれない。


かといって、自分の知りえた情報を噂として無責任に流すわけでもなく、純粋にキューピッドを楽しんでいるふうだ。


・・・ま、たまにいるんだよな。こういうタイプ。



百戦錬磨は全く当てにはしていないけれど、島津の声のトーンの明るさに離してみようか。という気になっていた。



「恋わずらい・なのかなあ・・・。」

島津に言われたセリフをそのまま言葉にしてなぞってみると、急にリアリティを増してくる。


「へえぇ・・・。浜尾みたいに、カッコヨクてスタイルもよくて、性格もいいヤツが恋わずらいっ!!お前が告白して落ちない女はいないだろーっ。」

なぜだかとおっても嬉しそうに島津が相槌を打つ。
悩みを聞いてくれるんじゃなかったのかよ。
・・・ま、上京とともに今まで付き合っていた彼女と別れて絶賛恋人募集中。のお前からしたら嬉しいネタなんだろうな。


「そんなことないよ。だって、俺、話してても面白くない。ってふられたことあるし。」
「へーっ。そうなんだあ。なんか勇気もらっちゃうなあ。」

「どういう意味だよ。それ。」
「言葉どうりだよ。お前みたいに完璧で、しかもモテモテとくれば、どっかに欠点があるんじゃないか?って思いたくなるだろ?お前みたいなヤツでも、ふられることあるんだなーっ。男は顔だけじゃないな。って思って・・。」


俺の悩み相談だったはずが、島津の悩み相談になってないか?


「・・・でで??相手は、誰?」
「誰、つっても、話したこともほとんどないんだけど・・・。」


「浜尾が惚れたのに告白できないって、どんな高嶺の花だよ。」


高嶺の花。


言いえて妙だ。


どこにでもいる平凡な学生の俺からはうんと遠くのできるオトナのオーラを出しているあの人。

どんな背伸びをしても、追いつけない・・・。