「葉山君。エアメールが届いてるよ。」
「・・・え?僕に??」

レッスンを終えて、弓を下ろすと教授から真っ白な封筒を渡される。


一気に夏らしくなって、半そででも汗ばむぐらいになってきた。
ジュリアート音楽院も例外ではなく、湿気を嫌うバイオリンの手入れにみんな神経を尖らせている。

日本と違って梅雨はないので、この時期特有の胸のざらつきは感じることがなかった。


一通のエアメールを受け取った瞬間、違う意味でのざわつきを感じる。


なんだか、未来が一気に変わるときのような。


そう。ギイが僕の世界に飛び込んできたときのような・・・・。


差出人のない封筒を、ペーパーナイフで丁寧に開ける。


ぱらち、と開いた真っ白な便箋には、青いインクの懐かしい文字が並んでいた。



タクミへ。

もうすぐ6月15日だな。

ギリギリになるかも、だけどそっち迎えに行くから待ってて。

飛行機のチケット、もう取ちゃった?

俺のわがまま聞いて聞いてくれるかな?



今まで何の連絡もなかったのに、突然送られてきた手紙。

きちんと折り目のついた便箋には、日本行きのファーストクラスの航空券が入っていた。



P・S  もし、間に合わなかったら、飛行機で。


もうっ・・・。約束覚えていてくれてたんだね。
半年以上音沙汰ナシで、やっとくれた連絡の割には、薄っぺらい封筒をぎゅう。っと胸に抱き締める。

でも、ちゃんと約束を守ってくれた。
ちゃんと存在してくれてた・・・。

それが、涙がでるほど嬉しくて。

きっと世界中を飛び回っているのであろうギイ。
6月15日だって、随分と無理をしてスケジュールを空けてくれたのであろう。



>聖矢さんに滅多に逢えないのに、どうしてそんなに強く愛しあえるの?
>・・・信じてるから、かな・・・・。

そんなふうに穏やかに笑っていた佐智さんを思い出す。


うん。・・うん・・・。
どんなに忙しくても、僕のこと忘れずに約束を守ってくれたんだね。ギイ。



電話ぐらいくれたっていいのに。

そう思ったけれど、ギイとのお揃いの携帯はギイが帰国したときにどこかへいってしまった。


僕がここにきていることは、伝えることはできなかったけれど。

きっとギイのお得意の魔法を使えば、簡単に探し出せたのだろう。


覚悟のつかない僕の自由意志を尊重してくれたんだよね。

僕に会うためだけに、何不自由ない生活を捨てて、あっさり14時間の時差を飛越えて会いにきてくれた。

ギイが注いでくれた愛情が僕を強くした。

そう信じて、待っていてくれたんだよね。


約束の時間が終ってしまう前に、無理やりにでもニューヨークに連れて帰ることもできただろうに。


きっと、僕が自分の意思で今度はギイに会いにいく。と・・・・。


「もうっ。仕方ないなあ・・・。今回だけは、わがまま、聞いてあげるよ。」

本当はもう航空券とちゃったけどね。
庶民の僕には、ファーストクラスだなんて、落ちつかないだけだけどね。
ギイに払ってもらう。なんてなんだか悔しいけどね。


きっと、忙しいギイは、墓参りが終ったらまたふたたび世界へ飛び立ってゆくのだろう。



だから、14時間のフライトのデートを大切にしよう。


カラリ。と晴れた空を見上げながら、この空の下のどこかにいるギイに向かってつぶやいた。



「・・・・ありがと・・・・。」




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久々のギイタクですWW
ってゆーか、二回目?3回目??

ちょっと、大まおをかくときとなんというか感情の使う部分が違う感じがして、変な気分で時間もかかるのですがWW

急にふっと。見えたエアメールをうけとるタクミ^^
なんだかとっても癒されたので、みなさんにもおすそ分け^^