まるで愛し合うのが自然なこと、であるように何の疑問も持たずに擬似恋人体験をした。

出逢うたびに「大ちゃん、大好きだよお。」と笑顔ですりよってくるまお。


ぺっとりと回された腕に胸が当たっても、ふにゃとしたやわらかい感触はなかったけれど、十分に俺にこんなにも懐いてくれている。という満足感があった。


撮影のときに見せた色気にはドキドキしたけれど、普段のまおからは、あまりにも俺のことを好きでいてくれるから、照れくさいといった感情のほうが大きい。


あまりにも当たり前に恋人同士。を演じていたものだから、いざ「タクミクンは卒業です。」って言われたときに戸惑いを隠せなかった。


「そっかあ。ギイからも卒業かぁ・・・。」


それは、タクミであるまおと恋人でなくなる。ということであり。
時間が経つにつれて、まおも俺から離れてゆくんだな・・。

と思うと、急に寂しさがこみ上げてきた。



作品が終ってしまう寂しさだけではない、空しさ。とでも言うのだろうか??


まおにとって、テニミュの仲間。ゴセイジャーの仲間。というくくりがあるように俺もそのうち「タクミクンの仲間。」というカテゴリーの一人になってしまうのではないか?という焦りを感じる。


今までこんなにも好きでいてくれて、懐いてくれていたのは、まおが感性で役を感じるからで。

撮影が終ってしまったら、過去の作品のヒトツにしかならないように、恋人同士を演じた一人、にしかカウントされないんじゃないか?という焦り。



俳優仲間の一人で終りたくない。
どこまでが友情とか、愛情とか、そんな難しいことはわからないけれど、とにかくまおを手放したくない。


そんな感情に駆られる。



「あのさ。まお。たまには、メシ行こうな?」


なのに、でてきた言葉はたったこれだけで。


「まおのことを愛してるよ。撮影が終っても一緒にいてくれな。」ぐらい言えればいいのに。我ながら臆病だな~~。と笑ってしまう。
百戦錬磨だろーっ。今更告白ごときで何をそんなに戸惑っているんだ?

だって、相手はまだまだ10代の男の子なのだ。
どんなふうに告白したらいいのかなんて、わからない。


もしかして、NOであるかもしれないのに、ちゃんと逃げ道作っといてやんねーとな。という親切心にみせかけた、臆病な本心。


「うんっ!!嬉しいなぁ。約束だよっ。」


キラキラとした瞳で、俺を見詰める。


「ずっと、ずっと側にいさせてね。大ちゃんのこと、大好きだから・・・。」

ぎゅ。と両腕をつかまれて、まおのキラキラした瞳に見とれているうちに・・・。

ふわ。とやわらかいものを唇に感じた。



「・・・っ!!」

覚悟がなかったので、ただただ驚いていると、

「・・・駄目?」

と、大きな瞳がみるみるうちに曇ってゆく。



「いやいや。びっくりしただけっ。俺も愛してるよ。まお。これからも、よろしくな?」


なんと表現したらよいのだろう。

愛されているのだろう。と思いながらも、ゆらゆら・ぐらぐらと頼りなかった愛情が、カタチになったこの瞬間を。

全身を歓びと安堵が駆け巡り、ぐいっとまおを抱き締めた。



「・・・よかった・・・。」
「・・・大ちゃん?」

「お前が、俺のこと、好きで・・・。」
「どうして?いつも言ってたじゃない。」


俺を見上げてくるまおの瞳は、素直そのもので。

腕の中にまおを閉じ込めながら、ドキドキドキと高鳴る鼓動は、きっと俺のほうが速いんだろうな。なんて思う。


「そうだったな・・・。でも、お前自分からキスとかしてこなかったじゃん。」
「そんなの恥ずかしいよ。・・・それに、大ちゃんだってしてこなかったじゃん。こんなにアピールしてるのに、お仕事だから仲良くしてくれてるのかなーっ!?ってちょっと不安だった。」


「じゃあ、改めて。俺とつきあってください。まお。」
「・・はい・・・。」


今度は、お互いの気持ちを確かめ合うように、ゆっくりと唇を重ねた。