そんな俺の隣で、父はじっと考えこんでいる。


「・・・どうしても、わかってほしいんだ。駆け落ちとか、秘密とかじゃなくて、お互いの家族に受け入れてもらって、幸せになりたいし、幸せにしてやりたい。

結婚。というカタチは取れないかもしれないけど、ただの恋人とかじゃなくて、真剣に一生側にいたいから。

・・・だから。ごめん。きっと、これからも、まお以外の人と結婚するつもりはないから。
期待させないように、言っておく。」


はーっ。と大きくため息をついた父が、脱力する。


「ほんとになあ。お前は、頑固者というか、こう、と決めたらこう。だもんなあ・・・。
それが、いいところなんだろうけど。

・・・負けたよ。」

「・・・認めて、くれる?」


「認めるもなにも・・・。反対したって、自分の意思を貫くだろ?お前は。」
「・・・う・・・。ごめんなさい。」

「いいよ。昔っから、そうだもんなあ・・・・。いつまでたっても、変わらないな。そういうところは。」

あははっ。と父が懐かしそうに笑う。



ああ・・・。そうだ。


これをしたい。あれをしたい。

ってお願いするたびに、「途中で放り投げたら許さないぞ?」って念押しされて。
それでも、やりたい。がんばるから。って一生懸命自分の気持ちを伝えた。

「じゃあ、きちんと最後まで貫きとおすんだぞ?それがお前の責任だからな。」
「・・・うんっ!!」

って、頭を撫でて許してくれた父の大きな掌の感触を思い出す。


父さんこそ、そういうところ、変わってないよ・・・・。


笑っていた父さんが、急に真剣な表情になって、俺と向き合う。


「・・・大輔。そこまでの覚悟があるなら、男として、最後まで守りぬけ。
お前の人生に相手を巻き込むなら、どんな矢が降り注ごうとも、守り抜ける強固な盾になれ。

浜尾君だって、男なんだから。お前が年上かもしれないけど、あくまでパートナーとして対等な立場でいろ。
きちんと一人の人間して認め、男としてのプライドを傷つけるなよ。

あの子は、可愛い外見をしているかもしれないが、きちんと自分の芯を持った子だから・・・。」


「・・・はい・・・。」


やっぱり俺のことをきちんと見て、わかってくれている。


もちろん、俺だけでなく、まおのことも。


貴方の息子に生まれて、幸せです。


まおを選んだこと。


自信をもって、胸を張って生きてゆけるように。


もっともっと強くなって・・・。


まおを、愛しぬきます。


ありがとう。




「婚姻届」という紙は書けないけれど。


まおと、一生生きてゆきます。


そう。


心の中で、固く誓ったのだった。