守るだけでもなく、守られるだけでもなく。
甘えるだけでもなく、甘えられるだけでもなく。

お互いの存在を認め合って、高めあえる存在。

強い絆で結ばれ、恋心の情熱だけでなく、羽根を休め安心できる居場所。
結婚。というカタチは取れないけれど、きっと家族(ホーム)というものは、こんな関係なんだろうな。

と、思えるような唯一の相手。


ただの同居人の恋人。というだけではなくて、やっぱりきちんと両親にも理解してほしくて。
貴方達の育てた息子は、こんなに素敵なまおを愛しました。
自信をもってこの気持ちを伝えることができます。

そう、思えるぐらいお互いの気持ちが揺るぎないものになっていたから。


「ちょっと、ゆっくり話がしたいんだけど、いいかな?」

久しぶりに帰った実家。


「・・・なんだ?改まって・・・。」

父と二人っきりで向かい合う。


こういう時、母さんや姉ちゃんがいると伝わる話も伝わんないからな。


「あのさ。実はもう1年以上一緒に住んでる恋人がいるんだけど。」
「・・・だろうな。最近のお前は、しっかりしてきた。」

さすがは、父親。
未来を考えだしたことを、感じとっていたのか。

「・・・真剣に付き合ってるんだ。父さんも知ってると思うけど・・・。俳優の浜尾京介。」
「・・・真剣だったのか・・・?」

「うん・・・。」


二人の間を沈黙が流れる。

そりゃ、そうだろうな。

いきなり息子から、同棲しています。しかも男の恋人です。なんてカミングアウトされたら、
どう反応していいか悩むに違いない。


「・・・お前の人生なんだから、好きにしたらいい。って言ってやりたいけど。」
「・・・うん。わかってる。そんなすぐに「よかったな。」なんて言ってもらえるとは思ってないから。」


きちんと自分の責任において、判断して行動するように。と厳しく育ててくれた父。
俳優という職業を選んだときも、厳しい道だとわかっていても、俺の本気と覚悟を知って応援してくれた。


「幸せになれない。とわかっていて、祝福する親なんて、いないだろ?」
「・・・・なれるか、どうか。なんて自分たち次第じゃないか。」

「今は幸せかもしれない。でもな、お前はまだ人生の半分も生きてないんだぞ?」
「・・・そう。だから、自分に誇りを持てるように。まおに相応しい男になるように、頑張ってる。」

「あー・・・。そういう意味では、お前を高めてくれるのかもしれないが。」


あくまでも、冷静に。だけれど。


どうすれば、俺が軌道修正して、まおを諦めるのか?と説得しようとしている気持ちが見え隠れして、
いたたまれない気持ちになってくる。


「・・・後ろ指を指(刺)される生きかたでも、いいのか?
いくら自由な世の中になったとは言え、偏見の目で見られることだってあるぞ?
もしかしたら、仕事面でもマイナスになることだってあるかもしれない。」

「・・・ファンには気づかれないようにするよ。今時、独身の俳優だってたくさんいるし。」


「人生後戻りはできないんだぞ?今は狭い世界で生きているから、たまたま隣にいた浜尾君に惹かれただけかもしれないぞ?」

「・・・後悔は、しない。俺だって子どもじゃないんだから。まおと付き合うということが、どういうことなのか。ぐらいわかってるよ・・・。」


コトリ。と飲みかけのビールをテーブルに置く。


「本当に、まおのことを心から愛しているし、一緒にいて安心するんだ。自分が自然体でいられる唯一の相手だから・・・。」
「浜尾君がいい子なのは、わかってる。そういうことを言っているんじゃない。」


父が、大きなため息をつきながら、ソファに沈み込む。


「・・・お前はそれでもいいかもしれないが。浜尾君の意思は?未来は?ご両親は??どんな思いでいるか、考えたこと、あるか?」


「・・・そんなこと・・・・。もう、眠れないぐらい考えたよ・・・。」


軽々しい気持ちで付き合い始めたわけではないのだ。
何度も、何度も自問自答して、まおにだって何度も確かめた。

スクリーンの笑顔の向こうで、一体どれだけの涙を流したことか。
こんなふうに、過ごせたらいいのに。って。


「反対されることも、まおの家族も父さんたちを裏切ることもわかってて。何度も諦めようとお互い努力した。
何年も、何年もかかって、惹かれる気持ちに気がつかないように、努力した。
女の子とも付き合ってみたりした。

それでも・・・。

無理、だったんだ。

やっぱり、心から安心して信頼して、一生共に生きてゆきたい。と思えるのは、まおだけだったから・・・。」


お互いに、悩んで、苦しんで、出した答え。


ささやかで穏やかな日々を、許してほしい。


切実な、願い。


どうしても、わかってほしくて。


当たり前の幸せ。というものを失ってでも、貫き通したい強い想い。


父の前で涙をみせる。なんて恥ずかしかったけれど、気がつけばボロボロと涙があふれてきていた。