何度目かのお泊りの夜。
腕にひんやり。とつめたいものを感じて目が覚める。

「ごめん・・・なさい・・・。」

腕の中で眠っていたはずのが、うなされながら「ごめんなさい。」と何度もつぶやきながら泣いている。

「・・・まお?」

ゆさゆさと揺さぶって起こせば、薄く目を開けてほっとしたような表情を見せる。

「・・・どした?うなされてたけど。」
「・・・ううん。大丈夫。いつものことだから・・・。」

「いつものことって、お前。余計に大丈夫じゃないだろ?」

うん・・・。と小さく頷いて視線をそらすまお。

「わかってるんだけどね・・・。」
「・・・何が?」

俺には言えずに、一人で抱えてきた何か。というものがまだ他にもあるのだろうか?

「よく、あの夢見るんだ。大ちゃんはまともなのに、恋人扱いされて可哀想。って責められる夢。」
「・・・そうなんだ・・・。」

聞きたくないと思っていも、どこからか耳に入ってしまう自分たちへの負の評価。
演技がどーのとか、芝居がどーのという評価ならば、真摯に受け止めて、向上心に変えて、前向きに考えることができるれれども。

タクミクンの映画に関われたことで、自分の中の偏見が薄れたことは確かだ。
人を純粋に愛する、という気持ちに価値観は必要ない。
もちろん、BL映画に出たから男が好きになる。なんてことはありえない。
あくまで演技の中での役柄なのだから。

あの映画を気に入ってくださった方へのファンサービスとして恋人のように振舞っていた。という自覚はあるし、まおだってそうだ。

まおは素直に好きだ。という気持ちをぶつけてきていたところもあるかもしねない。

あの映画での共演がなければ、お互い自分の気持ちに気がつかぬまま過ぎていったかもしれない。
仕事でも、ここまで共演することはなかっただろうし、お互い映画が終れば役を引きずっていただけの気のせいだったのかな?で終っていたのかもしれない。

でも、今でも惹きつけられずにはいられないこの思い。
夢でうなされるほど、諦めようと頑張っていたのに、俺への思いを止められなかったまおの強い恋心。


映画がキッカケだったかもしれないけれど、決して流されたわけでも、勘違いしているわけでもない。
-----------自分達の意思で愛し合っているのに。


皮肉にも、俺達を引き合わせてくれた作品が、俺達を苦しめる。

「・・・それ、全く同じこと俺も言われるぞ?まお君が、可哀想。って・・・。」

一人でも多くの人の偏見がなくなれば。
人を愛するという純粋な気持ちを伝えることができたなら。

そう思いながら一所懸命届けてきたけれど、色んな受け止め方があるのだから万人に受け入れられるわけではない。
そんなふうにある程度は理解できるけれど。

まおは、全部100%受け止めちゃうからなあ・・・。

「まおを俺に取られた気がして、寂しいんだよ。きっと。
ほら。恋人ができました。結婚しました。ってことがあると異性のファンが減るから、できるだけ内密に。っていうのと一緒じゃねー?あんま、気にすんな。
反対も同じ。きっとまおと俺が恋人同士。ってことにしとけば、本当は自分が安心するんだよ。
大ちゃんが可哀想。と言いながらも、リアル感はもってないと思うぞ?女の子と真剣に付き合ってるよりマシ。って信じたい気持ちがあるんじゃないかなあ・・・・。」

基本的には好意的に見てくれているファンでさえも、こうなのだ。
それに、仕事なのだから。といくらでもいい訳ができる。

俺たちのことを知っている俳優仲間の世界の中でだけ生きていれば、感じないかもしれない世間の冷たい風。

外を堂々と手を繋いで歩きたいとか、街中でキスしたい。とかそんな大それたことを望んでいるわけではない。
ただ、ひっそりと愛し合うことを許して認めて欲しいだけなのだ。

ちゃらちゃらと合コンとかで知り合って、その場限りの愛が許されたり。
行きずりで一晩限りの恋だって存在するのに。

愛した相手が、まおだった。というだけで幸せになる権利すらもないと言うのだろうか?

どうして、真剣に愛し合おうとする人間を、同性だから。常識じゃないから。
と理由で攻撃されなければいけないのだろう?

俺も少なからず、正直「ちょっと気持ち悪いな。」とか思っていたのだから。


中身を知ろうともせずに、攻撃してくる人がいても無理はない・・かも・・・な。


だが。


世間に揉まれず、個性的であることが魅力である業界で生きてきたまお。
同性愛であることですら、個性と受け入れてくれる人間のほうが多い中で許されるべきもの。として告白してくれたのかもしれない。


やっと一歩を踏み出したばかりの恋。


お願いだから、潰さないでくれ・・・・。