いつまでそうやって、まおの背中が消えていった改札を眺めていたのだろう・・・。

トン。と誰かの肩に触れて、我に返る。

「あ。すみません・・・。」


気がつけば、人通りの多い改札付近までふらふらと歩いていた。

こんな図体のでかい男が、改札付近でぼーっと突っ立っているなんて、さぞかし迷惑だろう。

このまま電車に乗って、まおのことを追いかけたい。
「俺も好きだよ。」と伝えて、もう一度抱きしめたい。

そんな誘惑に駆られるけれど、よく考えればまおの家も知らない。
一人で気持ちを整理するために、どこかに立ち寄っているかもしれない。

仮に追いかけたところで・・・。

自分の覚悟はできているか??

結局抱きしめることしかできないまま、まおを苦しめることになるのではないか。

そんな思いがぐるぐると頭を巡って。




結局自宅に帰ることにした。


マンションの鍵を開けて、カチャリ、と鍵をテーブルに置く。
倒れこむようにして、ベッドに寝転ぶ。

真っ白い無機質な天井。

今頃まおもどこかで自分の気持ちを必死で整理しようとして、ふたたび涙を流しているのだろうか。
・・・いや。まおの性格だ。
泣くことすら許さずに、ひたすら笑顔で俺に接することができるように。と頑張っているに違いない。

「どうしたら、いい・・・?」

答えは、簡単だ。
自分が覚悟を決めればいいだけのこと。

まおは、もう覚悟を決めているのだから。

結婚がどうとか、そこまでのことはまおは考えていないだろう。
ただただ、好きという気持ちを伝えて、一緒にいたい。という純粋な気持ちを伝えてくれたのだろう。

でも、直感でわかる。

普通の恋愛のように、「まずは付き合ってみようよ。そのうち好きになるかもしれないし。」
「お互い両思いで嬉しいっ!!明日から、ラブラブだねっ!!」

などと、軽い関係にはならない。ということを。

何年も、何年もお互いに胸に秘めた思いが膨らんで、あふれ出して。
どうしても伝えずにはいられなくなった、限界ギリギリまで我慢した強い恋心。

何度も、何度もごめんね。と繰り返しながら告白してくれたまお。

一度、付き合う。という道を選んでしまったなら、きっとどんなに周囲が反対しようとも、不幸になろうとも、離れられない。
まおとの恋心を秘めながら、うわべだけの結婚さえもできなくなるぐらい溺れてしまうだろう。


それはつまり。


いつかは幸せな結婚をするだろう。と息子を温かく見守っているまおの大切な家族から、まおを奪うということ。
今は仕事で成功することが一番だから。と何も言わずに跡継ぎなどの話を一切せずに応援してくれている自分の家族を裏切ること。

それでも、自分の意思を押し通して生きてゆく覚悟があるか??


わからない。わからない。


まおを笑顔にしてやりたいと思う。

「俺も愛してるよ。」と抱きしめて、幸せそうに微笑むまおの顔が見たい。

何もかも忘れて、二人っきりで生きてゆきたい。

幸福で魅力的な未来だけれども。


急に暗転して、俺達を攻撃しだす世間の目。

今だけが幸せだったら、それでいいのか?と不安になる自分自身。


いくら考えたところで、出口のない迷路みたいだ。


・・・答え、なんてきっとない。


自分で選ぶしかないんだ。