「まっ・・・おっ・・・。」

アスファルトに落ちた雫を見た瞬間に何かが弾けた。
気がつけば、まおを抱きしめていた。

「・・・なんで、そうやって自分で全部解決しようとしちゃうんだよ・・・。」

腕の中まおが微かに震えている。

ごめんな。ごめんな。まお。
俺のほうこそごめん。だ。

もうとっくにお前気持ちにも、自分の気持ちにも気がついていたのに、今の関係を壊すのが怖くて逃げていた。

好き。という感情だけでは乗り越えられない未来というものを知っているから。
迷い・揺れ。
好きという感情は見えなかったふりをして、無難な道を選ぼうとしていた。

自分だけのために。

なのに、お前は一人でこの感情と戦っていたんだな。
必死にオトナになろうとして。ものわかりのいい後輩になろうとして。

・・・俺を困らせないために。

「ごめんな。まお。」

伝えたい思いはたくさんあるのに、何から話してよいのかわからずに、涙だけが頬を伝う。

「・・・うん。わかってる。聞いてくれただけで、またがんばれるから・・・。」

まおの頬も涙が伝っているのだろう。
抱きしめた腕が、温かいもので濡れてゆく。

それでもなお。

「俺も好きだよ。」

と言ってしまってもよいものかどうか、ぐらぐらと気持ちが揺れて、時間だけが過ぎてゆく。

「ま・お・・・。」

ただただ名前を呼んで、俺もお前のことが大切だよ。大好きだよ。
という気持ちを込めて、抱きしめるしか。

できなかった・・・。


「ありがと。大ちゃん。いっぱい、いっぱい抱きしめてくれて。」

まおの指先が、俺の固く握り締めていた指先を、一本・一本ゆっくりとほどいてゆく。

するり。とまおが俺の腕から抜け出し、ぬくもりが消える。
失ったぬくもりの分だけ、心の中に、冷たく重い鉛がのしかかったようだ。

「・・・ありがと・・・。」

ふんわり。と微笑んだまおの笑顔は絵に描いたように綺麗で。

寂しそうで、はかなくて。
なのに、見とれるぐらいに美しくて。

腕を伸ばせば消えてしまいそうで・・・・。


触れることができなかった。



「ま・お・・・。」


一人残された、暗い道。


湿気を含んだ空気が、ねっとりと俺を包み込む。


「・・・あ、そっか・・・。」


そういえば、今日は6月15日。


演技の中だとは言え、タクミであるまおにプロポーズした日だったな・・・・。


自分の誕生日とかではなく、敢えてこの日を選んだまおの心境を思うと。


なんだか、やるせなかった。