まおと付き合いだして一年が経過した。

一言で「1年。」と言ってしまえば簡単だが。


お互いに何年も恋心を抱き続け、それでも役柄上の感情を引きずっているだけじゃないのか?
憧れだとか、庇護欲と恋心を勘違いしていないか?
恋心だとしても、はっきりと付き合おう、というカタチをとる必要があるのか?

30歳を手前にして、将来を考えたときに、まおの未来と自分の将来を見詰め、本当にこのまま想いを受け入れ、伝えてしまってもいいのだろうか??

そんなふうに悩み続けた。


仕事上でも共演は多く、連絡先だって知っている。
言葉にしなければ、今までどおり、笑顔で会うことができ、たまには一緒にメシ食いに行ったりして。

少なくとも、俳優仲間、ただの友人、先輩・後輩の関係、以上の心の拠り所ではあったのだから。



それでも。

まおが一歩を踏み出したあの日から、カタリ。と音を立てて動きだした。



いったいどれほどの勇気と覚悟を持って言葉にしてくれたのか。

まおのいつもの笑顔を見ながら、買い物に付き合った帰り道。


「じゃあ。またな。」

と駅のホームに向かおうとして、シャツの裾をつかまれた。

「もう、黙っているなんて、できないよ・・・・。」

まおの真摯で澄んだ瞳が、じっと俺を見据える。
本気で何か大切なことを伝えようとしてくれているのが、眼差しの真剣さでわかる。

「ごめんなさい。大ちゃん。ずっと・・・。すき。だった・・・。」

一言、一言噛み締めるように紡がれた言葉が、蓋をしていた気持ちにざくざくと突き刺さってゆく。

うるうると潤んだまおの大きな瞳がゆらゆらと揺れている。

そんなことしか覚えていない。

「すきって、お前・・・。」

告白されたことなんて、何度もあるのに上手く言葉が返せない。

「ごめんね。迷惑だよね。おれ、男だし・・・。」

そんなことは出会った時から知っている。
それでも、惹かれる気持ちを抑えきれなかったことも。

まおの熱っぽい視線を感じながら、憧れ以上の感情を感じ取っていたのだから。
警戒して安易には心を開かないまおが、俺のことを信頼してくれて、決してベタベタするほうじゃないまおが、
俺にだけは甘えるように寄ってきてくれる。

もしかしたら・・・。

いや。とっくにまおの気持ちにも、自分の気持ちにも気がついていたんだ。

上手く返事をしてやれない俺の瞳をじいっと見詰めながら、きゅ。と唇を噛み締めてうつむく。


「まお・・・。」

どうしてよいかわからずに、まおの肩を抱き寄せようすると、まおがぱっと顔をあげる。
泣くのを必死でこらえているような笑顔で。

「でも、どうしても伝えたかったんだ。・・・・ごめんねっ。オトナになるからねっ。もう、困らせたりしないからねっ。」

それでも、こらえきれなかった涙がぽろり。と頬を伝う。

「じゃあ。また・・・・。明日からはいつもの笑顔に戻るからね。今日はありがとう。」

背を向けたまおの足元に、ぽたり。と雫が落ちた。