合格発表の日。

大学に番号を確認しに行って、確信していた通り自分の番号を見つけて心躍らせて。


校門を出ようとして、まさかここにいるはずのない人物の顔を見つけて、世界が止まった。
満開の桜の木の下にたたずむ人の姿。
会いたくて、でもどうすれば会えるのかもわからなくて、恋焦がれていたあの人。


「えっ・・・?どうして、ここに・・・??」
「だって、今日は合格発表だっただろ?」

「覚えていて、くれたんですか・・・・?」
「ちょっと仕事がたてこんでて、全然連絡とれなかったから。やっとおれも一息つけるようになったしね。」


-----そうだ。

2月いっぱいで休業する。って言ってたっけ・・・?


「そういえば、専門学校はどうなったんですか?」

あの忙しい合間を縫って、一生懸命勉強していた。
もともとは、そのお陰で出会うことができたんだから。

「ん・・・。こっちも晴れて4月から通えることになったよ。」
「よかったぁっ!!」

僕の大好きなふんわり。と向日葵のように明るい笑顔を久しぶりに見れて、心の中がぱあっ!と明るくなる。

「せっかくだから、ちょっと一緒にごはんでも食べない?」
「・・・そういえばっ!!」

合格発表の緊張感で、すっかり忘れていたけれど、ちょうどお昼時で、誘われると同時に急に空腹感を覚える。

周りが見えてくると、校門の柱にもたれるようにして、腕を組んでサングラスをかけた長身の男性に気がつく。


さっきから、浜尾君のことを待っているような・・・。


「・・・えと。でも、もしかして、お友達と一緒だったんじゃあ・・・。」
「うん。せっかくだから、一緒にお祝いしたいと思って。・・・・駄目かな?」
「いいえ。全然構いません。」


二人っきりのほうが、嬉しくもあると同時に今は息がつまるというか・・・。

きっと、泣きそうになってしまうから。




3人でお店に入って、サングラスをしていた人は、ずっと浜尾君と一緒に仕事をしていた人だったと知り、自分の世界の狭さを反省する。

ほんと、全然知らなかったなあ・・・・。

色々と。

優しく浜尾君を見守る瞳は、デビューからずうっと一緒に6年間を過ごしてきたというだけあって、全てを包む混むような慈愛に満ちていて。

僕の数ヶ月の恋心なんかとは、比べ物にならないぐらいの深みを感じる。


時間の経過なんて関係ない。

思いの強さでは負けていない。

そんなふうに思うけれど。


渡辺さんは僕にも優しい笑顔を向けて、「がんばったな。おめでとう。まおから話は聞いていたよ。」なんて微笑んでくれるものだから・・・。

なんだか、嬉しいんだか、悲しいんだか、ほっとしたんだか、わからないような感情がごちゃごちゃになって胸を熱くさせる。


本当に・・・・。


こんなに素敵な人たちに囲まれて、幸せですよね。


メニューを指差しながら、んふふ。と幸せそうに笑って「どうする?」と渡辺さんを見上げる浜尾君の視線が、あまりにもふんわりとやわらかで。


待っている人。っていうのは彼のことだったんだな。と確信する。


同性だろーが、恋人だろーが、年齢に差があろーが、そんなことは関係ない。


きっと、お互いに無償の愛情で信頼しきっている相手。


「なになに??合格発表終って、緊張の糸がほどけちゃった?」

僕のじわり。と滲んでしまった涙を二人はそう解釈してくれたけれど。

決定的な失恋の悲しみよりも、もっと大きな強さみたいなものが心を満たしてゆくのを感じる。

「・・・ありがとう・・・ございます。」

「いやいや。おれ、何にもしてないし。というか、一方的にお世話になって、連絡なしで気になってたんだよね。こちらこそ、ありがとう。だよ。」

「まおのことをすっごく尊敬しているみたいだけど。人それぞれ輝ける道は違うから。
まだまだ、二十歳にもなっていないんだし、そんなに未来を決めるのに焦らなくてもいいよ。
自分を磨くために、色んな勉強をしながら、バイトでもサークルでもなんでもいいから責任を持って色んな分野のことを経験したらいい。
そうすれば、自然と自分のやいたいこととか、向いていることが見えてくるから。
・・・夢って、無理して見つけるものじゃないだろ?」

ニコニコと相槌を打ちながら、僕たちの話を聞いてくれていた渡辺さんが、余裕たっぷりな落ち着いた笑顔で話してくれる。


なんだか、ヒトツ、ヒトツの言葉が心に沁みてきて。

浜尾君がこの人を選んだ理由がわかって。

大好きな人が、この人の側で安心して笑っていられることに癒されて。



でも、やっぱりちょっぴりの切なさを伴う嬉しさに満たされて・・・・。


僕も新たに力強い一歩を踏み出そう。と決心できた。


さようなら。


ありがとう。


別れを告げて、歩みだした先には、満開の桜並木がピンク色に染まって僕を迎えてくれた。