ドアの向こうでは。


一人だけ先にまおの部屋に通されてしまって、そわそわしながら待っていた。


「あー・・。緊張した。まおの母親って、思ってたより若いんだな。
・・・そりゃそうか。俺の母親と同じ年で生んだとしても、単純に俺の母親より9つ若いんだもんな。
変な印象持たれなかったかなぁ・・・。」

恋とは不思議なもので、何度も経験があっても初めてのことのようにドキドキしてしまう。

大学で家を出て、そのまま上京してしまったから、彼女の実家に遊びに行く。なんてことも高校生以来だ。


きちんと靴も揃えたし、挨拶もしたし、とびっきりの笑顔も作ったし・・・。

うん。大丈夫なはずだ。


思っていたよりも、所狭しと色んなものが置いてあるまおの部屋。

凝り始めるととことん凝ってしまうのに、目移りも激しいまおらしい。

バラバラのジャンルのものが、ヒトツの部屋に同居していて、なのに乱雑なわけではなくて、慣れてくると居心地よい。とさえ思えてくる空間。


「おっそいなぁ。まお。」

勝手に座るわけにも行かず、入り口付近で手持ち無沙汰に突っ立っていると、両手で紅茶の入ったトレイを持ったまおが入ってくる。

「ごめんねっ。お母さんに先にお茶持って行きなさい。って引き止められてたから。」
「・・・なんか、言われた?」

自分では合格ラインだと思うけれど、やっぱり気になる。

「ううん。何にも。大ちゃんがかっこよすぎて、緊張するって言ってた。」

ふふふっ。とくすぐったそうに笑うまお。

「そっかぁ。よかった。第一印象って大切だからな。」
「大ちゃんに悪い印象持つ人なんていないよお。」

トレイを机に置いて、ぎゅっと抱きついてくるまお。

まだドキドキしている俺の心臓をなだめてくれる。

「あー・・・。でも、それ、惚れた欲目ってのもあるぞ?」
「・・・ないでしょう。」

じいいっと腕の中から見上げてくるまおのキラキラした視線に。

「・・・なあ、キスぐらいしてもいいかな・・・?」
「うん。大丈夫。お母さん入ってこないと思うよ?」


初めて入る恋人の部屋で。

人生でこんなにドキドキしたことはないんじゃないか。ってぐらいドキドキするキスをした。



いつも、もっと凄いことしてるのに。

やっぱ、恋人の実家ってのは、トクベツだなー・・・・。



暫くすると、遠慮がちにノックの音がする。

「京介?お母さん、ちょっと出かけてくるからね。お友達と会ってくるから、夜遅くなると思う。
・・・渡辺君、ゆっくりして行ってね。京介のこと、よろしくお願いします。」

ドアも開けずにそのまま、パタパタと出かけてゆく音がして。

シーンと部屋が静まり返る。


「・・・なあ?今のって・・・。」
「うん。気を遣って出て行ったんだよね。」

「俺たちの関係、まだ話してないんだよな?」
「うん。はっきりとは。」

「・・・どうする?大ちゃん。」
「どうするって言われても・・・。」

「なんか、落ち着かないよね。」
「そうだよな。」

ベッドに二人で腰掛けて。

キス。の後に見詰めあったままの距離を空けて。

指先だけで手を繋ぎあって。


「やっぱ、やめとこう。」
「・・・そうだね。」

結局、まおがあ最近はまっているらしいDVDを見ながら、マイ・冷蔵庫にストックしてあるらしいプッチンプリンを食べて。

なんだか、学生みたいだなあ。

なんて思いながら、懐かしいようなデートを楽しんだ。


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もし、大ちゃんがまお君の家に行っていたならば、どんな感じなのかな??と妄想//