「うーん・・。今日は一日机に向かってたから疲れた~~!!」
「ほんとですね。何か、食べて帰りますか?」

「ん・・・・。」

彼が、ちょっと困ったように視線を泳がす。

ついつい声をかけてしまったけれど、たまたまいつも図書館で隣り合わせ。っていうだけの僕が声をかけてしまって、図々しかったかな・・・。

「あっ。別に嫌だったらいいんですっ。」

両手を目の前でブンブンと振って、慌てて否定する。

「嫌っていうか・・・。今日はね。ちょっと待ってる人がいるから。」
「そっかあ。そうですよねっ。」

もしかして、彼女さんかな?
それとも、家族かな??
こんなに綺麗で、頑張り屋さんな人をほっておくわけないよね。

そもそも、彼は一人暮らしなんだろうか。
なんとなく年上、って感じはしてたけど、よく考えてみれば、何一つ彼のことを知らない。



それから、何度か一緒になることはあったけど自分から誘う勇気はなくて。

いつものように、何も言わずに隣に座って、時々言葉を交わして。

数時間一緒に過ごして彼が帰ってゆく。という日が続いていた。



そんなある日。


荷物をまとめながら、彼が意外なことを言ってくれた。

「お腹空いたねえ。ラーメンでも食べて帰る?」
「えっ。でも、待ってる人がいるんじゃないんですか?」

「ふふっ。今日は仕事で遅くなるって言ってたから。」
「そうなんですか・・。」

そんなにお仕事の大変な彼女さんなのかな?

「じゃあ、お言葉に甘えて・・・。・・って、そういえば、名前も聞いていませんでしたね。」
「あっ。ほんとだあ。なんか、ここに来れば会えるって思ってたしね。」

「いつも隣だったから、名前で呼ぶこともなかったし。」
「浜尾京介と言います。」

礼儀正しくお辞儀をして、握手を求められる。
・・・なんだか、急に改まった感じで、不思議な感じがする。
さりげなくこういうことができるって、やっぱりオトナなんだなあ・・。

「あっ。えっと。桜井咲也と言います。」
「さくらいさくや・・・??」

きょとん?とした顔をして、小首を傾げる浜尾君。

「あ。言いにくいですよね。4月1日の桜が満開の日に生まれたらしくって。それで、咲也って・・・・。」
「へえ。そうなんだあ。おれ、桜って大好き。思い入れのある花だからね。」

懐かしそうに遠い瞳をする。

「学年の中ではいつも一番年下だったから、小学校のときとかは嫌だったけどね。みんなよりも遅れているみたいで。・・・だからかなあ。負けん気だけは強いんです。」
「あ。それ、おれも一緒。自分に負けるなっ!!っていつも喝入れてる。」


のんびりと肩を並べて駅前のラーメン屋さんまで一緒に歩いて。


僕が食べ始めても、いつまでもふうふうと麺を冷ましている浜尾君を、なんだかかわいいなあ。と眺めて。


一旦社会に出たけど、デザインの勉強がしたくて、専門学校に入りなおすことを決めた。
夢は、世界で通用するインテリアデザイナーになること。
そのために今は、勉強の毎日であること。

なんて話を聞かせてもらって。


キラキラと真っ直ぐに前を見据えて夢を語り、しかも努力を惜しまない姿に感動した。