毎日、彼が来ているか?と、図書館のドアを開けると、まず最初に探すようになっていた。

いつもの席がからっぽだとがっくりくるし。
万が一にでも他の人が座っていると、思わずここは彼の席ですよ。なんて言いそうになる。

不定期な出会いは、思いを募らせる。

特に何か約束をしているわけでもなければ、偶然言葉を交わしただけの存在なのに。

いつの間にか心の奥底に入り込むようになっていた。


彼がいるときは、僕の黙って隣の席に座る。

ふ。と視線をあげて、ふわり。と微笑んで「おはよう。」とだけ言うと、また参考書に視線を落とす彼。
何も言わずに、ちょっとだけ本や筆記用具をずらして、僕が座りやすいようにしてくれる彼。

そんなちょっとした気使いや仕草に心惹かれた。

んーー??と頬に指先を当てて考え込む仕草も。
腕組みしたまま、たまにうとうとしてしまっている
腕が以外に逞しいことも。
伏せた睫毛がオトコの人にしては、すっごく長いことも。

鮮やかな映像のように、脳裏に焼きついていた。


「ねえ・・・?」
「はい・・・。」

時々、ちょっとだけ身体をずらして、話しかけてくる。
もちろん、自力では解決できない問題を「教えて?」と聞いてくるために。

それでも、このわずか10cmの距離の違いに、なんだかドキドキしてしまう。
尊敬する彼に、頼られている。という感覚が嬉しいからだろうか。
小声でやりとりするのが、なんだか二人だけの会話。って気がしてくすぐったかった。

「ふーん・・・。あっ!!そっかあ。」
「わかりました?」
「うん。ありがとー・・。」

キラキラ。と向日葵にのように輝く笑顔を向けられて、ぱあっと自分の未来も明るく照らされるような気がした。


不思議な人だ。

側にいるだけで、こんなに心が晴れやかになるなんて・・・。