その人は、いつも窓際で座っていた。

光に透けるやわらかな明るめのブラウンの髪の毛。
真剣に参考書と向き合う瞳。
考え込むときにくちびるに指先を押し当てる癖。
くるくるとシャープペンを回す器用で繊細な指先。


図書館にくるたびに、彼にあうのが楽しみになっていた。

・・・と言っても、一方的に見詰めるだけなのだけれど。


「・・・あれ?今日は来てないんだ・・・。」

ドサリ。と机に荷物を置いて、あの人の定位置に視線をやる。

毎日来るわけではないようだけれど、平日の昼間に図書館通いってことは、高校生ではなさそうだ。
僕と同じ、予備校生ってとこかな・・・??

参考書を広げて勉強しだすけれど、なんだか身が入らない。

・・・それは、きっとあの人がいないから。


正直、受験前のこの時期にきて、自分のやりたいことがなんなのかわからなくなってきた。
未来のために勉強するのか、受験のために勉強するのか。

そんなことをこの時期に悩んでも仕方ないことはわかっている。
今は、ただひたすら合格するためだけに勉学に励まなくてはいけないことも。

・・・ただ、父が卒業した大学に入りなさい。と言われて、小さいころから洗脳されて。
学部はどこでもいいから、と言われて、なんとなく得意だった理系の学部を選んで。

そんな状態で、自分の意思を強く持てるはずもなく、去年は受験に失敗してしまった。


・・・だからと言って、自分のやりたいこと。が明確にみつかってもいない中途半端な現在。
やっぱり、なんのために勉強するのか。が見つけられないまま毎日をなんとなく過ごしていた。


そんな時に、出逢ったあの人。


いつも重そうな鞄をパンパンにして、どうしたらそんなに集中できるんだろう。てぐらい顔もあげずに参考書とにらめっこしている。

真剣な瞳がカッコヨクて。
未来に向かって努力する姿が尊敬できて。

僕もがんばろう。

そんなふうに思えた。