「ただいま。・・・まお?・・・まお??」

家に帰って、ただいま。を言うけれど、返事がない。
いつもは、ゴムマリちゃんのように跳んできたり、長めの袖をつかみながらパタパタと足音をさせてふんわり迎えてくれたり。
ちょっと悪戯したいときは、ドア影に隠れていて、通りすがりに「おっかえりっ!!」なんて抱きついてきたりするんだけど。

今日は、リビングにも、ベッドルームにも、どこにもいない。

「おっかしいなあ・・・。」

まおの靴は玄関にあったから、家にいるはずなのに。


「まお~~。まお~~。」

名前を呼びながら、部屋中を探す。

扉を順に開けてゆく。


最後の一枚のクローゼットの扉を開けると、まあるくなって眠っているまおがいた。

手には、くしゃくしゃになってしまった紙を握り締めている。


「なんだろ・・・?」

起こさないように、そっと紙を取る。


そこには。


「大ちゃん。謝先生の舞台おめでとーっ!!!」

って書かれてあった。


ああ。さっき、「舞台決まりました。」ってスタッフからのお知らせ。で、ブログに更新してたからだな。

きっと、サプライズで「おっめでとーっ!!!」って言いたくて、ここに隠れて待っているうちに寝ちゃったんだな。


「大ちゃん・・・・。おめでとー・・・。」

幸せそうに寝言を言いながら、膝に顔をうずめる姿は、まさに天使そのもので。


稽古は厳しいけど、すっごく充実感と達成感があって、楽しかった。
もっと、もっと高みを目指していきたいと改めて思った。

俺は、やっぱり生の舞台が好きだな。
あの、臨場感はたまらない。

二人の原点だったテニミュ。

やっぱ、ミュージカルって楽しいよな。
謝先生の舞台は、求められることもレベルが高いし、やりがいがあった。


そう熱く語ったことを覚えていてくれたのだろう。


もちろん、謝先生に限らずのことだが。

一度共演した仲間や、横井監督のように何年も一緒に作り上げてきたスタッフと一緒に仕事をするのは、すっごく楽しい。

そういう話を二人で常日頃しているものだから、まおの中で記憶に新しい謝先生との再演は、「すぐに夢が叶ったね。」って感じで、テンションがあがったのだろう。


「ありがと。まお。」


すうすうと寝息を立てて、幸せそうに眠っている天使の頬にキスをした。


さあて。


せっかくおめでとうを言ってくれたまおのためにご馳走でも作るかな。