「それにしても、まおって本気ダッシュしたら、すっげー足早いんだな。
あっと言う間に見失っちゃったわ。俺。」
「・・・あの時は、頭に血が上ってたしね~~。余計に、かな?」

線路沿いに、のんびりと肩を並べて歩く。

二人とも部屋着のままで飛び出してきちゃったから、何にも持っていない。
寒さに震えていたおれを気遣って、大ちゃんが羽織っていたシャツを貸してくれたけれど、きっとこの薄手のシャツ以上に暖かさを感じている。

散々、おれって馬鹿だ。と後悔しまくったけれど、大ちゃんだって、財布も携帯も持たずに後を追って飛び出してきたことを聞いて、ちょっと笑ってしまう。

・・・なあんだ。同じレベルにこどもなんじゃん。って。

結局無一文のおれたちは、タクシーも拾えず、電車にも乗れず、こうやって線路沿いにぺたぺたと歩きながら話ている。


でも、この時間の流れ方がいい。

ゆっくり色んなことを話しあいながら、二人のマイ・ホームに帰ろう。

「もうねえ。一人ぼっちになったら、このまま死んじゃうんじゃないかとか、変なことばっかり考えてた。」
「このご時勢に、のたれ死にとかないから(笑)その前に、警察とかが見つけて、なんとかしてくれるよ。」

あんなにも、深刻に悩んでいた自分の行動が馬鹿らしくさえ思えてくる。

「・・・でも、本気だったんだもん。大ちゃんの側にいれないなら、死んじゃうのと同じぐらい、辛かったんだもん。」
「・・・や、だから、俺の側にいるな。と言ったわけではなくて・・・。」

先ほどの話を蒸し返されて、バツが悪そうに言葉を濁す。

「あははっ。わかってるよ。・・・ってゆーか、もう許してる。」
「信じてない。とかじゃなくて、時々不安になるというか・・・。」

しばらく、無言のままぺた。ぺた。と二人の足音が響くのを聞いていた。

「・・・あのさあ。」
「・・・ん?」

「大ちゃんって、すっごく心配症だよね。」
「・・・そうだな。自覚ありかも。」

きちんと未来を先読みして、最悪のシナリオを想定して、きちんと現在どうすればいいのか、を考える。

それに対して、おれは自分の感情とか、意思とかそんなものだけで「なんとかなる。」と突っ走ってしまうところがある。

「・・・でもさあ。それでちょうどいいのかも。」
「・・・そうか??」

「お互いにないものを補いあうというか、ちょうどいいバランスなのかも。」
「芯の部分の価値観は似てるけど、実は性格は全然違うもんな。」


大ちゃんの言うとおり。

もし、まっすぐに伝えた気持ちをすぐに受け取ってくれたらどうだったのだろう。
些細なことで、ぐらぐらして、やっぱり気の迷いだったのかな?と後戻りすることはなかっただろうか。

後悔しないか?と念押しされなかったら、簡単に逃げ出してしまうこともあったのではないだろうか。

大ちゃんがこうやって、何度でも不安になって気持ちを確かめようとしてくれなかったら、こんなにも深い思いにはならなかったのではなうだろうか。


今、こうやって自分の意思で未来を歩むことを選んだことだってそう。

どこかで、心配性な大ちゃんが間違っていたら修正してくれる。と甘えている部分がなかっただろうか。


自分の意思。ではあるけれど、その決定には全て大ちゃんの意思、も関わっている。

だから、全ての責任は半分こ。

大ちゃんだけを責めるのもおかしいし、大ちゃんがいるからこそ乗越えてこれたこともあるはず。


そう思うと、追い詰めて、追い詰められて、家を飛び出して、今こうやって線路沿いをぺたぺた歩いているのが急におかしくなってくる。


「・・・なに、急に笑ってるんだよ。まお。」
「んっ・・・。べっつにい。二人とも、馬鹿だなあ。って思って。」

大ちゃんがつられたように笑う。

「馬鹿でいいんだよ。人間だから、こうやって、何度も間違いを犯して、自分の足りないところに気がつくんだからさ。」
「うんっ。ほんと、そうだね。」


こうやって、なんども馬鹿みたいに、勘違いして、すれ違って、思いを深めて、人間としても成長してゆこう。


果てしなく遠くまできてしまった。と感じていたけれど、大ちゃんと一緒だった帰り道はとっても近く感じた。

・・・駅二つ分ぐらい?といったところ。

無意識に走り回ると、知らない道もたくさんあるものなんだなあ・・・。
まあ、飛び出したときはやけくそになってて、わざと知らない脇道にそれていったのもあるけど。


うん。新たな発見。

今度のお休みには、また新しい道を散策してみよう。


あったかく光を灯したままおれ達を迎え入れてくれたマイ・ホームのドアを開けた。