もうっ!!信じられないっ。ありえないっ!!!」

ただいまぷち家出中。
もしくは、実家に実家に帰らせていただきます。といったところ。

・・・いや、もともと実家暮らしなのだから、この表現はおかしいか。
大ちゃんの家は、あくまで居候な訳だし。

・・・ああっ。もう、そんなことどうでもいいけど、とにかく腹が立つっ!!

むらむらと沸きあがって来る怒りのままに家を飛び出してきた。

怒っているはずなのに、感情が昂ぶっているからか、胸がきゅんと締め付けられて、熱い涙があふれる。
もう、自分で自分の感情がわからない。


宛てもなく、怒りのままにずんずんと歩いてきてしまった。

「ここ、どこかなあ・・・?」

いつの間にか、知らない町並みを歩いていた。

「・・うっ。寒い・・・。」

部屋着のTシャツ一枚で飛び出してきまったので、頭が冷えてくると共に寒さを感じる。

ここから、どうしよう・・。

実家にでも帰るか。もう、大ちゃんなんて知らないんだからっ。
ひとまず、最寄の駅を誰かに聞いたらなんとかなるよね。

どこの駅かなあ??

そこまで考えて、財布を持っていないことに気がつく。


「せめて、お財布ぐらいは持ってくればよかった・・・。」

我ながら計画性のない家出に、がっくしくる。

本気なんだからねっ。本気で怒ってるんだからねっ。

・・・でも、何にも持たずに飛び出したことに大ちゃんが気がつけば、
「怒ってるアピーだな。ほとぼりが冷めたら帰ってくるだろう。」ぐらいにしか思わないんじゃないだろうか。

ほんと、おれって・・・。馬鹿・・・。

でも、それぐらい頭にきたってことだ。


ことのおこりは、夢の新婚生活が始まろうか。といったところ。

うきうきと荷物を運び込むおれに向かって、こともあろうに大ちゃんはこんなことを言ったのだ。

「・・・まお。このまま流されてもいいのか?俺としか付き合ったことなくて、もっと他の世界を見なくてもいいのか??今なら、色々他のヤツとも遊んで、またやっぱり俺がいい。って思ったら帰って来ることだってできるんだぞ。」

それを聞いた瞬間、頭にカーッと血が上って、何を言われているのかがわからなかった。

「・・・大ちゃんの、バカッ!!!」

初めて、思いっきり平手打ちをして、家から飛び出てきた。

こんなに怒りにまかせて行動したのって初めてじゃないだろうか。

腹が立って、悔しくて、悲しくて。

そんなふうに思われてたなんて。

じんじんと、まだ掌がしびれている。

この掌の痛みは、大ちゃんをぶった痛みであると同時に、おれの自身の心の痛み。

おれのことを考えてくれている。のかもしれないけど、そんなの理解できない。
自分の人生は自分で決める。

大ちゃんが好き。

確かに、最初は子どもっぽい感情だったかもしれない。
実際コドモだったし。

大ちゃんが、それを、未熟な感情の迷いだと、悩んだことがあるのは知っている。
だから、なかなか告白も受け入れてもらえなかった。

やっと、心身共に両思いになって、理解しあえて、一生共に生きていくんだ。
40歳になっても、50歳になっても、外見は衰えても、心底心から愛している。

そう、覚悟して家をでよう。

と。決心したのに。

「大ちゃんの、バカ・・・。バカっ・・・。バカッ!!!」

小さくつぶやいていたつもりの独り言が、いつの間にか大きな声になっていて、はっとする。

・・・でも、いいや。

どうせ、回りには人はいない。

知っている景色もない。


・・・大ちゃんの側にいなかったら、どこにいればいいんだよ。おれ。

・・・みんな、知らない世界ばっかりだよお・・・。

見知らぬ街に一人ぼっちでいる自分が、急にさみしくなってきて、ぽりぽろとさっきとは違う涙が流れた。