<おつかれ~~!!久々に呑みに行かないか?>
<わあ。琢磨君、久しぶり。もちろんです。>

まおの全ての仕事が終ってからラインを送る。

一応、気を遣ってトリゾ#23が終った次の日に。
この日は、テニミュ4代目とか、もしかしたら二人っきりで・・とか、色々と予定もあるだろうから。
親友というポジションを確保する上で、きちんと辺は配慮したい。

<3月に入ってからでもいいですか?>
<もちろん。まおも暫くはまだまだ忙しいだろ?>

本当は、一番に「お疲れ様。頑張れよ。」と言ってやりたいけど、まおにはまおの都合がある。
・・・それに。
きっと、まだまだ舞台続きの大ちゃんのことを、支えてあげたい。という気持ちもあるのだろう。


3月に入ってから会ったまおは、すがすがしい充実した表情をしていた。
・・・あんなに追い詰められていたのが嘘のように。

「よかった。元気そうで。」
「琢磨君も。」

一ヶ月ぶり?ぐらいで、こんなにも人間って変わるんだな。と思った。
・・・なんだろ?
前はもっと、落ちついて見えるんだけど、どこか浮ついていたというか、はしゃいでいたというか。

今のまおは、しっとりと落ち着いていて、それでいて自分の意思でしっかりと歩いている。
そんな気がする。

自分で決めた道を貫きます。
決意は固いので、迷いません。

そう、言いながらも、笑顔でどの仕事もこなしながらも、守ってやらなければ。
そんなふうに感じていた。

「・・・なんかあった?まお。」
「なんか・・・??」

「なんか、卒業した以外にも、ふっきれたみたいな顔してる。」
「・・・最近、充実してるからかな?」

「そう・・・。」
「そう。」

乾杯。とグラスを合わせてから、暫く沈黙が続く。

「・・・大ちゃんはどうしてる?」
「ん・・・。元気だよ?」

「そっか。まだまだ舞台続きで大変だな。まおも。」
「・・・大変じゃないよ?好きで、側にいるんだし。」

グラスを両手で包み込みながら、幸せそうに微笑む。
ああ。やっぱり、失恋確定、ってところかな・・・。

「やっと、ゆっくりできるのに、外出続きで大丈夫か?」
「うん。ちゃんと話してるし。大ちゃん、そんなに心狭くないし。」

僕だったら、やっと二人でゆっくりできるんだから、どこにも行くな。と言ってしまいそうだけど。
ああ・・。でも、自分がそんなふうに束縛されるのは嫌かな。
勝手なもんだよなあ。人間って。

アルコールがまわってくると、まおが饒舌になってくる。

「この前、大ちゃんとケンカしちゃってねえ。おれの休息を優先して、自分は全部言いたいことも、やりたいことも我慢して見守っていてくれたのに、そんな気持ちを察してあげられなかったから。
こうやって、どっかに行くのも、全然反対されたことないし、その優しさに甘えてたんだよね。今思えば。
・・でもねえ。色んな人と会うのも、自分の視野を広めるためだから。って言ってくれて。」

ふふふ。とケンカした、と言う割には、愛されてるなあ。ってオーラがバシバシと出ている。
失恋決定したばかりの僕の横で、幸せそうに笑うまお。

・・・でも、あんなに追い詰められていたまおが今はこんなにも穏やかに微笑んでいるんだから、いっか・・・。

「大ちゃんってばねえ・・・。あんなに完璧に見えて、実は抜けてるところあって・・・。意外と世話が妬けるんだよ。
出かけても怒らないくせに、報告がないとすぐ拗ねるメンドクサイ性格だしねえ。30過ぎてるのに、おれより子どもっぽいとこあるし。ゲーセンとか行ったら、もう目が真剣なんだもん。」

・・・そんなところが愛おしい。と思うのだろう。

マメに連絡して、エスコートして、甘やかして。
今までこれで落ちなかった相手はいなかったけれど。

まおだって、明らかに好意は抱いてくれていた、と思うけれど。

かっこ悪いところや、情けないところも全てさらけ出せる相手。
一緒にふざけあってくれる相手。
守りつつも、きちんと相手の世界も大切にして、距離を置ける相手。

僕には頼りなく思えたけれど、自分の足で歩こうとしているまおのためにはそのほうがいいのかもしれない。

いつかは、大きく羽ばたくために、手を離さないといけないときが必ず来る。
外の世界で色々経験してきて、疲れたら戻っておいで。と受け止めてやる。

そんな大ちゃんの懐の深さを感じて・・・。

「負けたな。」
「・・・えっ?琢磨君のスコアってどうだったけ~?」

なんて、見当違いな返事をしているまおを横目に、告白すらもしないまま、失恋したのだった。


------------------おわり。-----------------------