「あ。もうこんな時間なんだ・・・。」

パソコンのディスプレイが紅色に染まってきたことで、夕闇に包まれつつあることに気がつく。

「たった、3日間だから。」
「ん・・・。そうだね。寂しいけど、がんばる。」

いつもより早く起きて、大ちゃんにとびっきり美味しい朝ごはんを食べてもらって、
そう言って、玄関口で送り出した。

まだ、そっと頬に触れてくれた指先のぬくもりも。
ふんわりと重ねられた唇のやわらかさも。
抱きしめあった背中の感触も、全てついさっきのことのように思い出せる。

・・・それでも、赤く染まりゆく空を見ていると、言い知れぬ孤独に捕らわれる。

「大ちゃん。リハ終ったかな・・・。もう、ごはん食べたかな・・・。お風呂に入ったかな・・・。」

仲間とわいわいと最後の気合いを入れているであろう大ちゃんを思い浮べると、
頑張って。と応援したくなると同時に、なんだか切なくなる。

「・・・ダメだなあ。こんなことじゃ。」

違う道を選ぶ。と決めたときからわかっていたこと。

おれは、おれでやるべきことが他にある。

シャッ。と遮光カーテンを引いて、再びキャドを使いこなせるように、画面と向き合う。

どれぐらいの時間が経ったのだろう・・・。

「うん。なんとなくわかった。」

一通り使いこなせるようになって、画面から顔を上げると、時計はすでに8時を指している。

「わあ。もうこんな時間。お腹ぺこぺこだっ。」

現実に戻ると、急に襲ってくる空腹感。

一人で、食事を作って、一人で食べて。
・・・すっごくさみしいけれど、大ちゃんだって頑張っているんだから。

空に大ちゃんへの思いを届けようと窓のほうを見やると、硝子に映る自分の姿。
すっかり日が暮れて、真っ暗な空間にいる自分が、おれを見詰めている。
一人ぼっちでごはんを食べながら。

「ばんばれ。京介。」

実家に帰ることだってできたんだけど・・・・。
なんだか、敢えて大ちゃんのことを思いながら一人で過ごしたい気分だったんだ。

がんばれ。おれ。