「まお。水着持ってきてくれたんだろ?」
「あっ。うん。確かここに・・・。」

ごそごそ、とバックの中を探る。
まあ、ビーチで水遊び程度には海に入るかも・・・とは思っていたけど、まさか素もぐりをするなんて思ってもいなかった。
ウエットスーツがなかったら、いくらなんでも、寒いでしょう!?

そんなおれの心配をよそに、ぱぱぱっと着替え出す大ちゃん。

「ほら。まお、行くぞ?」
「えっ。待ってよ~~。」

アセアセと、水着に着替えて大ちゃんの後を追う。

ごつごつ岩の突き出た海岸線にたどりつく。

「まお。脚切らないように気をつけろよ?」
「あっ。うん・・・。」

大ちゃんが先に立って、手を引いてくれる。
・・・あはっ。なんだかこういうところは、デートみたいだよね。

サーフィンは好きだけれど、こういう岩場の砂浜ってあんまり来た事なかったなあ・・・。
バス停から歩いてきた砂浜は、穏やかな感じだったけれど、別荘の奥には岩場が広がっている。
ざっぱあん。と打ち付ける波が、水しぶきを上げる。
岩場を覗き込めば、水深2~3mといったところ。

「すっごい透明度だねえ・・・。」

底までクリアに見える海なんて、そうそう出会えない。

「・・だろ?学生のときに、俺も寄らせてもらって、感動した。」

ゆらゆらと揺れる水面が、太陽の光を反射してキラキラと光る。
海を覗き込む大ちゃんの横顔も、ゆらゆら・キラキラ・・・・。

「さっ。もぐるか。」
「・・・ええっ。いきなり?」

さっと立ち上がる大ちゃん。

「いきなりじゃないぞ?ほら。あそこにサザエがある。岩の陰にウニもいるだろ??」
「あっ。ほんとだあ・・。」

海の底を指で指されて、初めて気がつく。
・・・ごめんなさい。大ちゃんにみとれてました。
その間に、ちゃんと、ハンターしてたんだね。

「まおは、ちょっとそこで待ってな。」

ざっぱあん。と水しぶきを上げて、綺麗なフォームで飛び込む。
全く無駄のない動き。ってのは、こういうことを言うんだろうなあ・・・。
なんて、またまた見とれてしまう。

・・・はっ。これじゃあ、さっきから見とれてるだけじゃん。おれ。

水をかきわけながら、大ちゃんが戻ってくる。

「さすがにまだ水が冷たいな。・・・慣れてしまえば、平気だけど。・・・ほら、収穫。」

大ちゃんの手には、サザエが二つと、ウニがヒトツ。

「・・・まおも、やってみる?」
「・・・うんっ。」

天然に転がっているさざえやウニを取ってくる、なんて経験そうそうないからね。
そもそも、こんなに浅瀬にいるものだなんて、知らなかったよ。

飛び込んだ瞬間は、ひゃっとなるぐらい冷たかったけれど、確かにもぐってしまうとカラダが慣れる。
小さな魚が戯れる岩場にちょこっとお邪魔して岩陰を覗くと、ウニやサザエがゴロゴロしている。

素手で、それらをつかんできて、得意げに大ちゃんに報告する。

「ほらほら。こんなにたくさんあったよ~~。」

水面から、顔を出した大ちゃんが「へえ。すごいな。まお。」と感心してくれる。

岩の上に置いてから、またもぐって・・・。を繰り返す。

何度目かに顔を上げたときに、大ちゃんがこっちを見て、おいでおいでと手招きしていた。

「・・・何?」
「面白いもん、見せてやるから。」

「ええっ。なに~~?気持ち悪いもんじゃないよね?」
「大丈夫。大丈夫。可愛いから。」

本当かなあ・・・。大ちゃんの表情が、すっごくいたずらっ子みたいにキラキラしてるんだけど。

「ほらっ。」

差し出されたものの感触に、思わず飛びのいてしまう。

「わわわっ。びっくりした~~。何??これ。」
「何ってお前、見たらわかるだろ~~?タコだよ。ほら。ちゃんと足も八本・・・。」

・・・タコ?タコまで素手で捕まえたですか??渡辺さん・・・。

「食ってみるか?これ以上ないぐらい新鮮だぞ?」
「・・・って、これ生きてるんじゃないの?」

「踊り食いとかと、一緒だろ?」
「ううん。そりゃ、そうだけど・・・・。」

ぶちっと引きちぎってくれた足を一本もらい、口に運ぶ。
んんっ?これは・・・。

「大ちゃん。固すぎて、切れないんだけど・・・。」
「あははっ。新鮮なタコって、こんなもんだぞ?まおは、スーパーの茹蛸しか食ったことなかっただろ?」

「・・・大多数が、そうだと思うよ?」

ケラケラと笑う大ちゃんを見て、ツッコミを入れる。

・・・なんかさあ。こういうところが楽しいんだね。大ちゃんといると。

女の子とのデートもしたことがないわけじゃないけど、同じ目線に立つ、というよりはどうしてもこちらが合わせてあげる感じだった。

甘ったるいデートって感じじゃないけど、こうやってバカみたいに笑いあって。
お互いが自然体でいれて、心から楽しめて。

「そろそろ、寒くないか?まお。」
「・・・うん。さすがに冷たくなってきたかも・・・。」

ちゃんとおれのことを気にしてくれていて、ぎゅと抱きしめてくれたかと思うと、ふわ。と優しいキスをくれる。
冷えてしまった身体には、その唇がすっごくあたたかい・・・・。

・・・でも、ちゃんとコイビト同士、なんだよね・・。

「愛してるよ。大ちゃん。」
「俺も・・・。まおは、俺の宝物だよ。」

大ちゃんの声が耳をくすぐる。

ゆらゆら。ゆらゆら。波に揺られて、不安定な身体をしっかりと抱きとめてくれる力強い腕。

そっか・・・。タカラモノなんだ・・・。

なんて、素直に思いながら、大ちゃんの腕に身をゆだねた。


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これ、ほぼ実話です(笑)
海の描写はね~~。ウニとか、サザエとか取りに行った時すっごく楽しかったので。
本当に、タコも素手で捕まえてた~~。ぶちってちぎってもらったけど、噛めなかった(笑)

ま、私は友人とその彼氏と行ったんだけどね(笑)