「ちょっと暑いぐらいだねっ。」
「さっき、全力疾走したしなあ・・・。」

サクサクと砂浜を踏みしめながら、別荘に向かう。
タンクトップのシャツに、薄手のシャツを羽織ってきただけなのに結構汗だくになってしまった。
シャツを脱いで、きゅ。と腰の辺りで結ぶ。

「やっぱ、お前、肌きれいだよな~~。二人きりで、よかった。」
「何?それ。」

ああ。そうだ。また熱くなってくると、露出度チェックが入るんだよね。
まあ、今年はクーラーの効いた部屋でいることが多いから、大丈夫だろうけど。
・・・って、人のことをすっごく心配するくせに、自分のほうがよっぽど色気むんむんなの自覚あるのかな?
大ちゃん。

ぱさっと。シャツを脱いで、無造作にくるり、とまとめてバッグに詰めた大ちゃんの体のラインの逞しいこと。

「・・・ねえ。また筋肉ついた?」
「ああ。今回の舞台で、また復活したかもなあ。」

なんて呑気にあくびしながら返事してるけどっ。

すがりつきたくなるような腕が、ぎゅっと抱きしめてくれる感触とか。
がっしりとした胸板に包み込まれて安心できる感触とかっ。
大ちゃんのほうこそ、見てるだけでドキドキしちゃうんだからねっ。

あんまり、無造作にタンクトップ一枚にならないで欲しい・・・・。
こんな明るい真昼間から欲情してしまいそうだから。

かあぁぁぁ。と一人で赤面していると、大ちゃんが嬉しそうににやにやする。

「・・何?もしかして、惚れ直してたとこ?」
「もうっ。そういうこと、いちいち聞かないのっ!!」

ぺしっと。背中を叩くと
「いってえ。なんで、惚れ直されれて、叩かれるんだよっ。」
なんて文句を言っているけど、デレデレしてるよ?大ちゃん。

どうも思っていることが全部顔に出てしまうらしいおれは、ちょくちょくこの手の突っ込みを大ちゃんからもらう。
ばれてしまうのが、恥ずかしいんだけど、すっごくデレデレと嬉しそうな顔をするもんだから、なんだか結局自分も嬉しくなってしまう。

そんなふざけあい?をしているうちに、大木の陰から別荘が見えてきた。

「わあ。ログハウスだあ~~!!」
「こんな海辺にログハウスって、傷まないのかなあ?」

感動しているおれを尻目に、現実的な感想を述べる大ちゃん。
もうっ。そこは素直に感動しておこうよ。

砂粒が化粧を施している丸太の階段を、一歩一歩登って行く。

「あ・・。木の香り・・・。」

ドアを開けると、潮の香りに混じって、ログハウス特有の木の香りに包まれる。

「・・・なんか、わかる気がするな。海辺に敢えてログハウス・・・。」

なんの仕切りもない広い空間が広がっている。
それぞれ外に面した場所には、小さめの窓がはめ込まれており、硝子越しに林の緑が映し出されている。
玄関の扉の横には、海辺へと続く開放的な吐き出し窓がある。
2階建て分ぐらいはある高い天井には、空調代わりのファンが風に揺られて自然に回っている。

大地の息吹と、広大な海を同時に感じられる。

「なんか、いかにも別荘って感じじゃねー?」
「うんっ。そうだねっ。」

部屋の隅に荷物をまとめて置いて、ひとまず何にもない床にゴロンと寝転ぶ。

「やっと、大ちゃんを一人占めできた・・・。」

大ちゃんの胸に腕を回して、ぴとっとくっつく。

「やっぱり、男前だよね~。」
「毎回、毎回感動してくれてありがとうな。30過ぎたおっさんに。」

間近に迫った大ちゃんの横顔を眺めながら感心していると、大ちゃんがクスっと笑う。

「うそ。自分でおっさんなんて思ってないくせに。」
「あははっ。ばれた?そうそう。今が一番充実って言うか、ここからが本番というか・・・。」

キリ。と強い意志の光をを放つ大ちゃんの瞳はやっぱりカッコイイ。
おれも、こんなふうに未来をしっかりと見詰めていたい。
そんな気持ちにさせる。

「・・・なあ。まお。ちょっとだけこのまま寝てもいいか?」
「うん・・・。いいよ・・。」

すう。とまぶたを閉じたかと思うと、すでに寝息をたてている。

そっか。そうだよね。
連日の舞台で疲れてるのに、わざわざ俺の卒業記念に。って無理して誘ってくれたんだよね。

安心しきった表情ですうすうと寝息を立てている大ちゃんをみていると、その安心できる居場所を造ってあげれているのが自分だということに、心が満たされる。

この心から安らげる環境と、心から身をゆだねれる相手。

「・・・おやすみ。大ちゃん。」

起こさないようにそっと離れて、ドアというドアを全部開けてかけ布団を見つける。
くるり。と大ちゃんごと包んでふたたび大ちゃんのにぴとっとくっついた。