「・・・わあ。思ってたより、すっごく自然いっぱいだね~~。」
「だろ?誰にも気兼ねせずにリフレッシュできるように。って購入した別荘だからな。」

電車とバスを乗り継いでやっとついた先は、本当にコンビにも街灯もないような林の中だった。

「・・大ちゃん。別荘って、どこ?」
「この道が海まで繋がってるんだよ。」

バス停の横に細い下り坂の小道が繋がっている。

「わあ。なんか、本当に秘密基地みたいだねっ。」
「秘密基地って・・・。お前、もっとロマンチックな表現があるだろ?」

「あははっ。そうだねっ。二人だけの、秘密の花園・・・とか??」
「うーん・・。それはそれで、なんか響きがエロい・・・。」

どーでもいいことを、腕組みしながら真剣に考えている大ちゃんがおかしい。
変なとこでこだわるのは、A型でも、B型でも一緒なんだねえ。なんて感心してしまう。

「じゃあ、誰にも邪魔されない静かな秘密の場所ってことで。」
「・・・そうだな。一泊しかできないけど。」

舞台の合間の貴重なお休みを、まるごとプレゼントしたもらえたのだ。
一泊でも、国内でも、豪華なホテルじゃなくても、十分だ。

さわさわ。と風が木々を揺らす音を聞きながら、二人で手をつないで小道を歩く。
キラキラと降り注ぐやわらかな木漏れ日が、現実を忘れさせる。
小鳥のさえずる声。新緑の芽吹く力強く、それでいてさわやかな香り。

自然に包まれて、五感の全てで受け取る。
・・・東京の公園を散歩するのとは違う、本物の自然の香り。
そして、一番違うことは、大ちゃんのぬくもりが
指先に触れることかなっ。
なんてね。

「・・・なんか、すでに幸せなんだけど。」
「・・・ああ。俺も。」

思えば、お仕事で海外にだってたくさん行かせてもらったし、地方にだって色々行かせてもらった。
心から楽しかっけれど、ゆっくりこうやってなんの予定も立てずにのんびりと・・。って旅行は初めてだ。
なんか、本当に6年間ただただ前だけを向いて突っ走ってきたんだなあ。
・・・なんて、しみじみ思う。

一歩踏みしめるたびに、
ぱきっ。ぽきっ。と小枝の割れる音がする。
アスファルトを歩いていれば気がつかない、自分の一歩。一歩。
普段は意識してないけれど、こうやって二人でずうっと今まで歩いてきたんだよね。
これからも、ずうっと歩いてゆくんだよね。

そんな気持ちを込めて、小枝を踏みしめる。

「あ。海の匂い・・・。」
「ほんとだ・・・。」

さわ。と流れる風にのって、潮の香りがしてくる。

まぶしいばかりの光が見えてきたかと思うと、ぱあっ。と急に視界が広がる。

「・・・わあ。すっごい。こんなとこ、日本にもあるんだねえ。」
「観光地じゃないからな。」

真っ白い砂浜に、エメラルドグリーンの珊瑚礁とはいなかいけれど、ごみヒトツ落ちていないさらさらの砂浜がとこまでも続き、ごつごつした岩がフクザツな地形を作り出している。

「これ、潮が引いたらいっぱいヤドカリとかいるよね~~。きっと。」
「・・・そうなのか?」

「うんうん。潮溜まりにたくさん小魚とか、ヤドカリとかいて楽しいよっ。」
「・・へえ。詳しいな。まお。」

大ちゃんが知らないことを知っていることが、なんだか嬉しい。
海が好きでよかったなあ。なんてちょっとだけ優越感に浸る。

さく。さく。と砂を踏みしめる。

「これ、靴脱いだら気持ちよさそう・・・。」
「ああ。これだけ細かい砂だからなあ。」

「荷物、持っててやるよ。まお。」

大ちゃんが、手を差し伸べてくれる。
荷物を渡して、大ちゃんの手を支えにして靴も靴下も脱ぐ。

「わあ。気持ちいい~~。」

素足に直接当たる、さらさらした砂粒の感触が気持ちいい。
思わず、ぐりぐり。と指先を動かして、砂に足先をめり込ませる。

「でも、そんなに埋もれたらパンツ砂だらけになるぞ?」

器用な指先が、パンツの裾をくるくると捲り上げてくれる。

「・・・そんなに気持ちいい?」

おれの行動を見ていた大ちゃんが、「じゃあ、俺も。」と靴を脱ぎだす。

「おおっ。確かにっ。なんか埋もれたくなるわ~~。」
「埋めてあげようか?」

両手で砂をすくいあげると、「いや。このまま埋もれたらまずいでしょ~?」
と言いながらも逃げない大ちゃん。

「ふふふっ。ほんとに埋めちゃうからね~~!!」

がばあっ。と両腕で本気で砂をすくうと「マジかよ~っ!!」
なんて、荷物を両手に持ったままダッシュする大ちゃん。

砂粒を跳ね散らかし、青空に舞う。

ぎゃははっ。と楽しそうに笑う大ちゃんの笑顔が、まぶしい。
イキイキとしたその背中を追いかけれるのが嬉しい。


「わわわっ。」
足をもつれさせて、転んぶ。
ぐらっと視界が揺れて・・・・。でも、ぽすんっとついた尻餅の衝撃は、さらさらの砂に吸収された。

「あ・・・。綺麗・・・。」

はあ。はあ。と乱れた息を整えながら、どこまでも続く青空を見上げる。
ふっ。と影が落ちたかと思うと・・・・。やわらかなくちびるが重ねられた。

「だい・ちゃん・・・。」

大ちゃんの香りに包まれて、きゅ。とその背中を抱きしめる。
瞳を閉じると、ざーっ。ざざーんっ。と静寂の中で寄せては返す波の音だけが聞こえる。
全力疾走したせいで、おれの心臓はまだドキドキしているというのに。
大ちゃんは呼吸ヒトツ乱れていない。

「・・・大ちゃん、タフだねえ・・・。全然息乱れてない。しかも、荷物持ってたのに・・・。」
「そりゃ、お前、ちぬで鍛えたからな。素足で走り回るのにも慣れてたし。」

「・・・あ。そっか・・・。」
「この大輔様に、本気で勝とうなんてまだまだ100年早いね。まお。」

「・・・100年経ったら、きっと死んでるよ?大ちゃん。」
「余計なこと、言ってんじゃねーよっ。」

ぺしっ。と軽い拳骨をもらう。

「俺はいつでもお前の憧れであり続けたいんだ・・・。」

ふたたび覆いかぶさるように抱き締められると、
ぽそり。と独り言のように耳元でつぶやかれる。

「うん。いつまでもおれの憧れだよ。大ちゃん。だから、ずっと前を向いて走っててね。
・・・ちゃんと、ついてゆくから。」

きゅ。と抱きしめて、背中をぽんぽんと撫でてあげると安心したように、ほっと息をつく大ちゃん。

「・・・さて。行くか。」
「・・・うん。」

起き上がると、真っ白砂浜に自分たちの残した足跡がずうっと繋がっている。
そう。こんなふうに、未来に向かって足跡を残してゆくんだよね。二人で・・・。