「・・・まお。卒業旅行でもしよっか。あんま、まとまった休み取れないけど。」
並んでテレビを見ていた大ちゃんがポツリとつぶやく。
「えっ!?ほんとっ!?」
中学生のときも、高校生のときも、結局卒業旅行ってできなかったから、すっごく憧れがあった。
今回だって、卒業・・・とは言え、自分一人のことだから誰かと・・・っていう訳にもいかず、家族だって仕事で忙しくて、言い出せなかった。
もちろん、大ちゃんの帰りを待っている毎日に不満はない。
せっかくまとまった自由な時間ができたのだから二人でゆっくり旅行でもしたいなあ。と思っていた。
・・・でもそれは、自分の都合だけの話で。
大ちゃんは次々とお仕事が入って忙しいから、自分からわがままは言えなかった。
「・・・いいの?大ちゃん、忙しいのに・・・・。」
「たまにはリフレッシュも必要だろ?心の健康のために。」
ぎゅっと肩を抱き寄せてくれる。
すっごく、すっごく嬉しい。
濱尾京介としての、初めてのバカンス。
お休みに入ったとはいえ、東京ではなんだかまだまだ人の目が気になってしまって堂々と二人で並んで歩くことができないから。
せっかくのデートだって、微妙に距離を空けてしまう。
・・・もちろん、手をつなぐなんてもっての他で。
ゆったり、のんびり、自分たちのことを誰もしらない離れ小島とかでバカンスしたいなあ・・・。
「海外はちょっと厳しいかな?日程的に。・・知り合いが、海辺に別荘持ってるから、そこ借りれるかどうか相談してみようか・・・・。」
「・・・ほんとっ!?」
大好きな海の側で、大ちゃんと二人っきり・・・。
「ああっ。何持って行こっかな~~??カメラは必須アイテムでしょお?あっ。素敵なインテリアあったらメモっておきたいし・・・。」
「おいおい。まお、気が早いよ・・・?」
テンションがあがってしまって、ぴょん!とソファから跳び下りると、さっそく準備を始めてしまったおれに突っ込みながらも嬉しそうにしている大ちゃん。
「・・・俺は、ひたすらリフレッシュかな・・・。読みたい本も溜まってるし。」
ちら。と本棚に目をやる。
二人分の本が詰まった本棚は、共に作り上げてきた舞台や映画の台本と、おれのデザイン関係の資料と、大ちゃんの豊富な知識のもととなっている雑学の本がぎっしりと詰まっている。
「・・・ねえ。大ちゃん、水着どれにする~~?」
「・・・お前、気が早いよ。ってゆーか、海にはいるつもりなのかっ!?」
「・・・ダメ??だって、もうサーフィンできるよ?」
「うーん・・。俺、サーフィンはパスだなあ。」
「そっかあ・・。じゃあ、水遊びでいいよ。」
「水あそびって・・・こどもかっ。」
呆れた様に突っ込んでくれるのが嬉しい。
だって、一緒にはしゃぎたいんだもん。
「まあ、気温しだいだな。一応、俺の分の水着も入れといて。」
「やったあ。」
なんだかんだで、いつもこうやっておれに合わせてくれる優しい大ちゃんが、大好きだよ。