エレベーターに二人っきりで乗る。

今までだって、こういうシュチュエーションは何度もあったけれど、こんなに緊張したことはない。
・・・だって、だって、あんなに憧れていた大ちゃんと思いが通じ合ったなんて、まだ信じられない。
すっごく不思議な気分・・・・。

それでも、とっても触れたくなって、大ちゃんのシャツの袖をきゅっと引っ張る。

「ん・・・?」


どうした?と見詰めてくれる、優しい眼差しにまた胸がきゅうん。とする。

「ううん。何でもない・・・。」
「そっか・・・。」

シャツの袖を引っ張ったまま、誘導されるがままに部屋までついてゆく。

パタン。

扉の閉まる音がする。


どうしていいかわからずに、大ちゃんの袖をつかんだままつっ立っていると、ソファに連れて行ってくれる。

「・・・ま、座れよ。まお。・・なんか飲む?」
「・・・あ。うん。じゃあ、紅茶・・・?」

冷蔵庫を開けたり、カップを確認したりしている大ちゃんの後姿が、こういうことろに慣れていそうで、頼もしくもあり、切なくもあり・・・。

いやいや。
お仕事柄、色んなホテルに泊まるからね。
慣れてるんだよね。

ほんっと、しっかりしろよなあ。
もうすぐ二十歳なんだから。

今時、高校生でももうちょと慣れてるよな・・・。

なんてめまぐるしく動く感情に、動揺している自分を叱責する。

「・・・どうぞ。」
「・・・あ。うん。ありがと・・・。」

カチャ。とテーブルにカップが並べられる。

「・・・とうとう、卒業だな・・・。」
「・・・うん・・・。」

ぽそり。と大ちゃんがつぶやく。

「長かったような・・・。あっと言う間だったような・・・。」
「うん・・・。でも、すっごく楽しかった。勉強にもなったしね。」

「・・そうだな。お前は、ほんっと成長したよ。」
「・・・ほんと?」

「いつまでも子どもだと思ってたのになぁ。いつの間にか、こんなに綺麗になって、しっかりして。」
「う・・・。いつまでも、こどもだって思われてたんだ・・・。」

ちょっとそれは、ショックかも。
ズズーン。とわかりやすく落ち込んでしまった僕を、慌ててフォローしてくれる。

「いやいや。ほんと、仕事の面ではすっごくオトナになったと思うぞ?」
「・・・いいよ。どうせ、大ちゃんからみたら、まだまだこどもだもん。」

すっかりいじけてしまった僕を、なだめながらも口元がゆるんでいる。

「・・・そういうところが、かわいいんだよ。まおは。」
「・・・なんか、フクザツ・・・。」

なでなで。
と頭を撫でてくれるんだけど、これってこども扱いされてるのか、恋人扱いされてるのか・・・。

「・・・あ。もう、10時過ぎてるぞ?そろそろ眠たい時間じゃないか?まお。」
「わっ。ほんとだあ。」

なんだか色んなことがありすぎて、とってもとっても長い一日だった。
いつもならまぶたの重くなってしまう10時を過ぎても、眠気を忘れてしまうぐらいだ。

「ひとまず、風呂でも入るか?」
「・・・あ。うん。そうだね。」

大ちゃんがお湯をためてくれている間、落ち着かない気持ちになる。

ここはやっぱり、一緒に入ったほうがいいのかなあ?
今までだって、大浴場とかでは一緒に入ったことあるけど・・・。
ホテルのユニットバスってのは、どうなんだろう・・・。

「ほら。まお。こっち来いよ。」

ぐるぐると考えてしまって、動けずにいた僕を呼んでくれる。

「ユニットだからな。湯はりしながら入らないと、あふれちゃうからな。」
「・・・あ。うん。そうだね。」

ぱぱぱっ。と洋服を脱ぎだす大ちゃん。

「ほら。お前も脱げよ。」

うーん・・・。
そりゃ今まで大ちゃんの上半身ヌードぐらい何度も見たことあるけど・・・。
もうちょっと、雰囲気ってものが、あるでしょう・・・。

筋肉のついた端正な体つきに、一人でドキドキしてしまっている自分が恥ずかしい。

「・・・恥ずかしくないの?大ちゃん。」
「・・・なんで?愛し合うもの同士、一緒に風呂に入ったらまずいか?」

「・・・や。そうじゃなくて・・・。」

・・・そうじゃなくて、どうなんだろう。

あんまり大ちゃんが潔すぎて、気後れしてしまう。

「・・・ほら。おいで?まお。」

バスルームの入り口で、もごもごしていると、ぐいっと腕を引っ張られて、洋服を脱がせてくれる。

「・・・ほら。」

大ちゃんが、壁にかけてあるタオルを引っ張って、渡してくれる。
・・・一応、腰にタオル・・・??

もうっ。大丈夫だよっ。
自分だけ、腰にタオル巻いてるほうが恥ずかしいじゃんか。

「このままで、いいっ。」


思い切ってしまえば、なんてことはなくて。
いつもの大ちゃんと、いつもの僕に戻る。

「大ちゃん、頭洗ってあげるよっ。」
「ええ~。お前、下手くそそう~~。」

「失礼なっ。これでも、小さいころはお母さんの肩たたきとか、よくしてたんだからねっ。」
「仕方ないなあ。」

ほら。なんて言いながら、目をぎゅとつむって、座ってくれる大ちゃん。
大ちゃんのさらさらの髪の毛が指に触れる。

「・・・ねえ。大ちゃん。気持ちいい・・・?」
「・・ああ。想像以上には。」

泡泡になったホイップが、両手から溢れる。
ついつい、楽しくなってきてしまって。

「ほら。ウルトラマン。」

きゅっ。と、そのまま両手を泡を搾り取るように、髪の毛を立てる。

「・・・お前え~~!!」
「きゃははっ。ごめんなさい。」

ウルトラマンの髪型のまま、ばしゃあっ!!とお風呂のお湯をかけられる。
楽しい。嬉しい。楽しい。

撮影が終っても、こんなふうに二人で過ごせるなんて。