「渡辺くーん。浜尾くーん。そろそろ、バスがでるよ~~??」

スタッフさんの声が、遠くでする。

「あっ。はい。わかりました。すぐ行きまーす。」

大ちゃんが返事して、こちらを振り向く。

「・・・さあ。まお。帰りますか。」

イスから立ち上がる大ちゃんを追いかけて、僕も立ち上がると、その背中にぎゅっとすがりついた。

「・・・帰りたく、ない・・・。」
「帰りたくないってたって、このバスに乗らないと交通手段なくなっちゃうぞ?」

戸惑ったように、後ろを振り向く大ちゃん。

「このまま、ずっと一緒にいたい・・・。大ちゃんのこと、好き・だから・・・。」

大ちゃんの体が、一瞬強張る。
・・・どうしよう。本当に言っちゃった・・・・。

「あ~~。どうしよっかな・・・。」

大ちゃんの掌が、受け入れるでもなく、突き放すでもなく、僕の手に重なる。

すっごく、すっごく困ってるよね。
こんないきなりマジ告白されて。

しかも、このタイミングで。

でも、このまま離れてしまいたくなかった。
連絡先を知らないわけじゃないけど、次にいつ会えるか?なんてわかんない。
どんな理由をつけて、連絡すればいいのかわかんない。

このまま、この手を離してしまったら、二度と会えないような気がして。


返事だけして、一向にバス停に向かおうとしない僕たちを心配して、スタッフさんが覗きにくる。
気がつかれないように、大ちゃんの背後で小さくなる。
・・・多分、バレバレだと思うけど。

「渡辺くーん・・・。浜尾くーん。どうする・・の・・・。」

大ちゃんが、目の前で片手だけ手をあげて、「ごめんなさい。先、出ててください。」と小声で返事する。

「・・・じゃあ、このホテルからのバスは一時間に一本しかないからね。終電に間に合うように気をつけてね。」

きっと気がついているけど、僕に気がつかないふりをしてくれたスタッフさんが、「じゃあ、お先っ。お疲れ様でした~~。」と手を振りながら、去ってゆく。

二人っきりになった楽屋代わりに借りていた部屋に、沈黙が流れる。
どうしよう・・・。気まずい、なあ。

コテン。と頭を大ちゃんの背中にあずける。

「まお・・・?」
「ん・・・・?」

大ちゃんの声が、ちょっとだけ震えている。

「今の、本気か・・・?」
「うん・・・。大ちゃんが、す・・・。」

き。と言い掛けると、大ちゃんが、くるん。と方向を変えて、こっちを振向く。
唇に当てられた、大ちゃんの人差し指。

「しっ。」
「・・・え?」

「俺から言わせて?まお。」
「・・・え?」

両肩に大ちゃんの掌が置かれ、僕の視線の高さまで
ちょっとだけしゃがんでくれる。
綺麗に澄んでいて、こころなしか少し潤んでいる瞳が、真っ直ぐに見詰めてくる。

ドキン。

心臓が跳ね上がる。

「・・・ちょ。待ってっ・・・。」

今度は僕のほうが怖くなってしまって、大ちゃんの唇に、しいっ。と人差し指を立てる。

「ちょっと、深呼吸させて・・・。」
「ふふっ。いいよ。落ち着くまで、待ってるから。」

ちょっとかがんだ姿勢のままストップ。してくれている大ちゃんは、後から思えばすっごくあの体勢ってしんどかっただろうなあ。なんて思うのだけれど。

すー。はー。と、深呼吸する間、その姿勢のまま優しく見守ってくれていた。
そうそう。言葉にしないと何も始まらない。
返事を聞かないと、前に進めない。
そう自分に言い聞かせて、緊張してドキドキと口から出そうなぐらいに跳ね上がる心臓をなだめる。

「・・・いいよ。勇気でた。」

待っている間に、反対に大ちゃんの表情はどんどん穏やかなものになっていって・・・。
覚悟を決めて、そう返事すると、ふわ。と僕の大好きな笑顔をくれる。

「・・・俺のほうこそ、まおのことが好きだった・・・。」

言い終わるか終らないかで、ふわ。と抱きしめられ、やわらかなキスが重ねられる。

きゅううん。と胸が締め付けられる。

きっとお互いに、役を通り越して恋心を抱いていることは知っていたけれど、今まで言葉にできなかった。
どこかで、それは「ギイとして?」「タクミとして?」という疑問がついてまわってしまうから。

ゆっくりと、大ちゃんの唇が離れてゆくと同時に・・・。

今まで胸に秘めていた気持ちがあふれ出すように、熱いものがこみあげてきて・・・。
じわあ。と涙が溢れる。

一度、堰が切れてしまった感情は留まることを知らずに、後から、後から涙がこぼれてくる。

「だいちゃぁぁぁ・・・ん。すき・・・。すきだよぉぉぉ・・・。」
「・・・うん。・・・うん・・・。俺も、愛してるよ・・・。」