まおのスケジュールを気にせずに、いつでも抱き合える安心感からか、気合いが抜けてしまってどうもいけない。

いつまでも、春眠をむさぼって起き上がれずにいると、ごはんの炊けるシュンシュン鳴る音と、味噌汁の香り高い匂いに誘われて、やっとこさ、目を開ける。

「あ。大ちゃん。おはよー・・。」

お玉を持ったまおが、こっちを振り返る。

「んふふ。朝の挨拶・・・。」

なんて、言いながら、エプロン姿のまま、布団の中に滑り込んできて、俺に抱きついたかと思うと、ちゅ。とキスをくれる。

「あったかーいっ。」

そのまま、もぞもぞと布団の中にもぐりこもうとするまお。
春の陽気、を感じる今日この頃、と言えどまおの手足の先はひんやりとつめたい。

「いつから起きてたの?まお。」
「ん~~。一時間前ぐらい?」

不覚っ。一時間もまおのいないベッドに気がつかなかったとは・・・。
以前なら、まおが寝返りを打つたびに、気配を察して目が覚めてしまっていたというのに。

「一時間も早起きして、何してたんだ?」
「んん~。お弁当、作ってた。今、すっごく梅が綺麗に咲いててねっ。桜もちらほら咲きはじめててねっ。
勉強の合間に、カフェごはんのランチもいいけど、公園でお弁当もいいな~~。って思って・・・。」

もぞもぞ。

そういいながら、更に布団の中へもぐりこんでゆく。

「・・・なあ。まお。お前、俺のこと起こしにきたの?それとも、二度寝しにきたの・・・?」
「んん・・・。両方・・・・。」

と言いながら、鼻先を俺の胸にこすりつけてくる。

「もうっ。仕方ないなあ・・・・。」

まおの頭を撫でてやると、うとうと・・。とまぶたを閉じるまお。
このまま寝かせてやってもいいけど・・・。

わざわざ味噌汁を作っている、と言うことは、気合いを入れて朝飯も作ってくれた。と言うことで。
このままほったらかして、自分だけごはんを食べてしまうと「何で起こしてくれなかったのさあ。」
と怒られることは、必須だ。

「ま~おっ。二度寝するのか?・・・せっかく、気合い入れて朝ごはん作ってくれたんじゃないのか?」
「あっ!!忘れてたっ!!」

がばっ!!とまおが起き上がる。

「ちょっと作りすぎちゃったからね。ついでに朝も和食にしちゃえ。と思って・・・。」

テーブルの上には、確かに朝から気合入りましたっ!!
って感じで、鮭の焼き物に、ほうれん草の白和えに、ブロッコリーとゆで卵と人参のカラフルなサラダに切干大根。
そして、これはあまりモノかな・・・?といった感じの、ウインナーと卵焼きが一切れだけ、ちまっとオードブルのように置かれている。

「あのね・・・。大ちゃんの分もお弁当つめたんだけど・・・。いいかな・・・。」

おずおずと、包みを差し出される。
ちょっと感動して動けずにいると、何を勘違いしたのかまおがアセアセと、包みを引っ込める。

「あっ。恥ずかしかったら、持って行かなくてもいいからねっ。勝手についでだから。ってつめちゃっただけだし。
全っ然、気を遣わずに断っちゃっていいからねっ!!」

本当に、どこまで愛くるしいのか。俺のコイビトは。

「誰も、そんなこと言ってないだろ?感動して、固まってただけだよ。」
「・・・ほんと?」

「・・・ああ。」
「・・・本当に、大ちゃん困らない?周りの人に、からかわれたりしない?」

-----くすっ。

俺のことを心配性だの過保護すぎるだの言ってるけど、お前もたいがい気にしいだよな・・・。
ねえ?ねえ?と心配そうに覗き込んでくるまおの瞳を見て、思わず笑ってしまう。

「何で、そこで笑うのさあ。」
「・・・いやいや。やっぱ、可愛いわ。お前。と思って・・・。」

ふてくされ気味に、小さなパンチが飛んでくる。

「かわいくないよお。・・・ってゆーか、返事になってないじゃん。それ。」
「ふふっ。もし、余計な詮索かけられたら『愛する恋人が作ってくれました。』って自慢しとくよ。」

「・・・いいの・・・??また、色々言われちゃうよ・・・?」
「現場の中だけなら、大丈夫だろ。」

ちょっぴり、心配そうなまおの瞳。

堂々と、恋人です。って紹介してほしい。まおの独占欲も理解できる。
まおだけを愛しています。って俺だって言いたい。

でも、まおからプレゼントされたティファニーのリングをしたり、結婚したい。って漏らしただけで
やっぱり世間の反響は大きい。

まだまだ、みんなに認めてもらうには、でっかくならなきゃいけないもんな・・・。
恋人がいよーが、いまいが。
結婚してよーが、してまいが。

先に俳優渡辺大輔ありき。ぐらいの存在感と実力をつけなきゃ。な。

まおを安心させるように、もう一度。

「そんな他人のことに首突っ込んでる暇ないぐらい、みんな自分の役に集中してるから、大丈夫だよ。
いざとなれば、自分で作りました。でも、ちょっと恋人が作ってくれました。って言ってみたかったんですよね~~。とでも、ごまかしとけばいいだろ?」
「・・・うんっ。ありがとっ。大ちゃんっ。」

まおの瞳がキラキラと光る。
このきらめきに、幾度救われてきたことか。

「・・・あのね。実は昨日も一人でお弁当つめて行ったんだけどね。
梅を見上げながら、大ちゃんと一緒にお花見できたらなあ。って思ってたの。
だから。
せめて、お弁当だけでも同じもの食べて一緒にお花見している気分味わいたかったんだあ。」

そんなことを思いながら弁当をつめていたのかと思うと、また愛おしさが募る。

「かまってやれなくて、ごめんな。まお。」

お詫びの気持ちを込めて、頭を撫でると、慌てたように顔の前で手を振るまお。

「違う。違う。そんな意味で言ったんじゃないんだからっ。ほんと、気にしないでねっ。
ちぬの舞台、楽しみにしてるからねっ。お稽古、頑張って・・・。」
「・・・ああ。ありがと。まお。」

ちゅ。とその髪にキスを落とす。

「でも、離れていても同じもの食べれるって考えるだけで、ほんと幸せ・・・・。」

ぎゅっと、二人分の包みを抱きしめるまおの幸せそうな微笑に。

この笑顔を守り続けたい。
やっぱり、まおは俺の強さだな・・・・。

春の陽気に包まれたランチタイムから、そんなことを思う俺だった。

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この季節って、意味もなく公園でランチしたくなりますよね~~。
育児休暇で家にいた時は、給食がなくなると同時に、弁当をもって近所の公園に花見がてらでかけたものです。