「最近、デートらしいデートしてないから。」
そんなふうに誘ってくれた大ちゃん。
すっごく暑いぐらいの熱気に、強風が吹き荒れるかと思えば、まさに小春日和な本日。
「ちょっと、でかけねーか?」
「でも、稽古は・・・?」
「今日は、昼からだから。」
薄手のシャツに、軽やかなスプリングコートだけ羽織って、パタン。とクローゼットの扉を閉めた大ちゃんが、振り返る。
おれは、まだ部屋着のままベッドに腰掛けたままだというのに。
こんな無計画に、ふらっと誘ってくれることは、珍しい。
「どうしたの・・?大ちゃん。」
「ん?別になんでもないよ。・・・ただ、こんな天気のいい日にまおと出かけたくなっただけ。」
思えば、ずっと稽古場と家の往復のみで、お休みの時も部屋に篭りっきりで役つくりに取り組んでいたっけ。
「それに・・・。なんか急に梅を見たくなった。・・・本当は、桜のほうがいいんだけどな。」
「桜は・・。まだつぼみだね。」
ふっ。と微笑む大ちゃは、桜を見てうきうきしたい。って感じじゃない。
どちらかといえば、はかなく消え入りそうな・・・。
春の風に舞い散る、桜のはなびら。
美しくも、はかない・・・。
「大ちゃん・・・。どこにも行かないでね?」
「んん?どこにも行かないよ?むしろ、まおと一緒にでかけたい、と誘ってるんだけど?」
ふわ。とやわらかく穏やかに微笑む大ちゃんは、やっぱりどこか遠い存在に感じられる。
そんな不安を打ち消すように、きゅ。と、シャツのすそを握り締めると、いつもどおりの笑顔を作る。
おれが、不安な顔をしていたら、なんだか不安が現実になってしまいそうで。
「じゃ。ぱぱっと用意しちゃうから、待っててね。」
「ああ。寝癖直すぐらいの時間は待ってやるよ。」
せっかくの大ちゃんとのデートだけど、あれこれ洋服を吟味している時間はない。
真っ白はなシャツに、ラフなジャケットを引っ掛けて、寝癖だけを手櫛で整える。
「お待たせっ。」
「全然待ってないよ。」
バタバタと焦って、靴をなかなか履けないおれを、クスクスと笑いながら見守っててくれる。
「そんなに急いでも、数分の違いだから落ち着けよ。」
「だって・・・。」
心が求めてしまうのだ。
急がないと、大ちゃんに置いていかれそうな気がする。
いつも前を歩いてくれて、でも、絶対に時々振り向いてくれて置いてきぼりすることなんてない。って知っているのに。
・・・なんで、今日はこんなに心がざわざわするんだろう・・・。
「変なまお。」
「変なのは、大ちゃんだよ・・・。」
くす。と笑った大ちゃんが、肩を抱き寄せてくれる。
その大きな掌に安堵しながらも、そう、小さくつぶやく。
レンタカーを借りて、ぼんやりと眠くなるような春の陽気の中をドライブする。
澄み渡る青空に、ふわふわと浮かぶ雲を見詰めながら、右手は大ちゃんの手をしっかりと握りしめる。
時々甘えたくなって、信号で止まるたびに、とんっ。と肩に頭をあずけると、
ぎゅっと外から見えない位置で握り締めた手を握り返してくれる。
特に会話は要らない。
こうやって並んで同じ景色を見て、春の空気を感じて、握り締めた掌から想いが伝わってくるから。
「ほら。ついたよ?まお。」
「うわっ・・・あっ・・・・。」
車から降りると、斜面がまるごとピンク色で染められている山が目に飛び込んでくる。
「すごいっ・・・ね・・・・。」
「・・・ああ・・・。」
ゆっくりと、梅林へと続く道を歩きだす。
ついてこいよ?と語りかけてくれる背中を感じながら、半歩遅れて歩いてゆく。
結構急な斜面のため、前を歩く大ちゃんをいつもより見上げる感じ・・・。
「大丈夫か?まお。」
「うん。平気。」
斜面が急になるにつれて、むせ返るような梅の香りと、一面の白とピンクの花に包まれる。
「ちょっと、入ろうか。」
「うん。」
歩道から逸れて、梅の生い茂る木の下へと腰を低くしながら進んで行く。
奥に進めば、進むほど、見渡す限りの梅の花と枝に囲まれて、現実を忘れそうだ・・・。
ふかふかとした落ち葉の敷き詰められた場所までくると、大ちゃんがゴロン。と寝転んでまぶたを閉じる。
そっか・・・。
この世界を感じたかったんだね。
おれも、何も言わずに大ちゃんの隣にごろんと寝転ぶ。
さわさわと風が吹きぬける音だけがする。
頬を撫でてゆく、春の妖精。
おれたちを包みこむような、梅の香り・・・・。
「・・・夏草や。兵どもどもが、夢の跡。だな・・・。」
「え・・・?」
まぶたを閉じたまま、大ちゃんがぽそり。とつぶやく。
「こんなに美しく咲き誇る梅の木の下にも、戦に破れてはかなく散っていった命がある。って思わないか?」
「・・・あ。うん。そうだね・・・。」
上体を起こして、大ちゃんの顔をのぞきこむと、遠い瞳をして梅の花を見詰めている。
そっか・・・。
大ちゃんが遠くに行ってしまいそうで、なんとなく感じていた不安はそういうことだったのか・・・。
今、大ちゃんが取り組んでいる「ちぬの誓い」の世界観。
台本を全部読んだわけではないけれど、セリフの練習をしているのを何気なく聞いていた。
きっと、遥か昔の時代。
はかなく散っていった命が、地面の下にうずまっている。
それを今でも見守っている梅の妖精を感じたかったんだね。
「うん。夏草にも、桜にも早いけど・・・。ちゃんと、感じるよ?」
もう一度、大ちゃんの隣にごろんと転がって、はらはらと舞い落ちてくる梅の花びらをぼんやりと見詰めた。
遠き昔に心を馳せると、ちょっぴり切ないような気持ちになるけれど・・・。
さっきまで感じていたような、得たいの知れないざわざわとした不安はなくなっていた。
二人で並んで、同じ世界観に身をゆだねる幸せ。
うん。こんなデートも悪くないね・・・。
--------------------------------------
しだれ梅が、咲いてるのをよくみかけるのですが、梅の花の絵を描きたいいいい。
と、常つね思ってましてWW
私の頭の中には、梅の木の下で寝転ぶ大まおさん。
でも、伝わってくる感情がほのぼの、ではなくてどこか切なかったので、何でかな??と思っていました。
今日、急に「あっ。ちぬだからだあああ。」と気がついて、形になりました。
今から、心おきなく梅の下で寝転ぶ大まおさんのイラストを描こうと思います~~。
絵ばっかり描いてたら、本業??は、お話でしょうがっ。って怒られそうなので、
きちんと一日一ページはお話描くようにしますね~~。
追伸。
有名なのでご存知だとは思いますが。
「夏草や。つわどもどもが、夢の跡。」は松尾芭蕉の俳句です~^^
平家物語だったけな??それは、しょぎょーむじょーでしょおお??って、すっごく気持ち悪かったので、調べました(笑)
中学生のみなさん。テストに出ますよ~~!!
そんなふうに誘ってくれた大ちゃん。
すっごく暑いぐらいの熱気に、強風が吹き荒れるかと思えば、まさに小春日和な本日。
「ちょっと、でかけねーか?」
「でも、稽古は・・・?」
「今日は、昼からだから。」
薄手のシャツに、軽やかなスプリングコートだけ羽織って、パタン。とクローゼットの扉を閉めた大ちゃんが、振り返る。
おれは、まだ部屋着のままベッドに腰掛けたままだというのに。
こんな無計画に、ふらっと誘ってくれることは、珍しい。
「どうしたの・・?大ちゃん。」
「ん?別になんでもないよ。・・・ただ、こんな天気のいい日にまおと出かけたくなっただけ。」
思えば、ずっと稽古場と家の往復のみで、お休みの時も部屋に篭りっきりで役つくりに取り組んでいたっけ。
「それに・・・。なんか急に梅を見たくなった。・・・本当は、桜のほうがいいんだけどな。」
「桜は・・。まだつぼみだね。」
ふっ。と微笑む大ちゃは、桜を見てうきうきしたい。って感じじゃない。
どちらかといえば、はかなく消え入りそうな・・・。
春の風に舞い散る、桜のはなびら。
美しくも、はかない・・・。
「大ちゃん・・・。どこにも行かないでね?」
「んん?どこにも行かないよ?むしろ、まおと一緒にでかけたい、と誘ってるんだけど?」
ふわ。とやわらかく穏やかに微笑む大ちゃんは、やっぱりどこか遠い存在に感じられる。
そんな不安を打ち消すように、きゅ。と、シャツのすそを握り締めると、いつもどおりの笑顔を作る。
おれが、不安な顔をしていたら、なんだか不安が現実になってしまいそうで。
「じゃ。ぱぱっと用意しちゃうから、待っててね。」
「ああ。寝癖直すぐらいの時間は待ってやるよ。」
せっかくの大ちゃんとのデートだけど、あれこれ洋服を吟味している時間はない。
真っ白はなシャツに、ラフなジャケットを引っ掛けて、寝癖だけを手櫛で整える。
「お待たせっ。」
「全然待ってないよ。」
バタバタと焦って、靴をなかなか履けないおれを、クスクスと笑いながら見守っててくれる。
「そんなに急いでも、数分の違いだから落ち着けよ。」
「だって・・・。」
心が求めてしまうのだ。
急がないと、大ちゃんに置いていかれそうな気がする。
いつも前を歩いてくれて、でも、絶対に時々振り向いてくれて置いてきぼりすることなんてない。って知っているのに。
・・・なんで、今日はこんなに心がざわざわするんだろう・・・。
「変なまお。」
「変なのは、大ちゃんだよ・・・。」
くす。と笑った大ちゃんが、肩を抱き寄せてくれる。
その大きな掌に安堵しながらも、そう、小さくつぶやく。
レンタカーを借りて、ぼんやりと眠くなるような春の陽気の中をドライブする。
澄み渡る青空に、ふわふわと浮かぶ雲を見詰めながら、右手は大ちゃんの手をしっかりと握りしめる。
時々甘えたくなって、信号で止まるたびに、とんっ。と肩に頭をあずけると、
ぎゅっと外から見えない位置で握り締めた手を握り返してくれる。
特に会話は要らない。
こうやって並んで同じ景色を見て、春の空気を感じて、握り締めた掌から想いが伝わってくるから。
「ほら。ついたよ?まお。」
「うわっ・・・あっ・・・・。」
車から降りると、斜面がまるごとピンク色で染められている山が目に飛び込んでくる。
「すごいっ・・・ね・・・・。」
「・・・ああ・・・。」
ゆっくりと、梅林へと続く道を歩きだす。
ついてこいよ?と語りかけてくれる背中を感じながら、半歩遅れて歩いてゆく。
結構急な斜面のため、前を歩く大ちゃんをいつもより見上げる感じ・・・。
「大丈夫か?まお。」
「うん。平気。」
斜面が急になるにつれて、むせ返るような梅の香りと、一面の白とピンクの花に包まれる。
「ちょっと、入ろうか。」
「うん。」
歩道から逸れて、梅の生い茂る木の下へと腰を低くしながら進んで行く。
奥に進めば、進むほど、見渡す限りの梅の花と枝に囲まれて、現実を忘れそうだ・・・。
ふかふかとした落ち葉の敷き詰められた場所までくると、大ちゃんがゴロン。と寝転んでまぶたを閉じる。
そっか・・・。
この世界を感じたかったんだね。
おれも、何も言わずに大ちゃんの隣にごろんと寝転ぶ。
さわさわと風が吹きぬける音だけがする。
頬を撫でてゆく、春の妖精。
おれたちを包みこむような、梅の香り・・・・。
「・・・夏草や。兵どもどもが、夢の跡。だな・・・。」
「え・・・?」
まぶたを閉じたまま、大ちゃんがぽそり。とつぶやく。
「こんなに美しく咲き誇る梅の木の下にも、戦に破れてはかなく散っていった命がある。って思わないか?」
「・・・あ。うん。そうだね・・・。」
上体を起こして、大ちゃんの顔をのぞきこむと、遠い瞳をして梅の花を見詰めている。
そっか・・・。
大ちゃんが遠くに行ってしまいそうで、なんとなく感じていた不安はそういうことだったのか・・・。
今、大ちゃんが取り組んでいる「ちぬの誓い」の世界観。
台本を全部読んだわけではないけれど、セリフの練習をしているのを何気なく聞いていた。
きっと、遥か昔の時代。
はかなく散っていった命が、地面の下にうずまっている。
それを今でも見守っている梅の妖精を感じたかったんだね。
「うん。夏草にも、桜にも早いけど・・・。ちゃんと、感じるよ?」
もう一度、大ちゃんの隣にごろんと転がって、はらはらと舞い落ちてくる梅の花びらをぼんやりと見詰めた。
遠き昔に心を馳せると、ちょっぴり切ないような気持ちになるけれど・・・。
さっきまで感じていたような、得たいの知れないざわざわとした不安はなくなっていた。
二人で並んで、同じ世界観に身をゆだねる幸せ。
うん。こんなデートも悪くないね・・・。
--------------------------------------
しだれ梅が、咲いてるのをよくみかけるのですが、梅の花の絵を描きたいいいい。
と、常つね思ってましてWW
私の頭の中には、梅の木の下で寝転ぶ大まおさん。
でも、伝わってくる感情がほのぼの、ではなくてどこか切なかったので、何でかな??と思っていました。
今日、急に「あっ。ちぬだからだあああ。」と気がついて、形になりました。
今から、心おきなく梅の下で寝転ぶ大まおさんのイラストを描こうと思います~~。
絵ばっかり描いてたら、本業??は、お話でしょうがっ。って怒られそうなので、
きちんと一日一ページはお話描くようにしますね~~。
追伸。
有名なのでご存知だとは思いますが。
「夏草や。つわどもどもが、夢の跡。」は松尾芭蕉の俳句です~^^
平家物語だったけな??それは、しょぎょーむじょーでしょおお??って、すっごく気持ち悪かったので、調べました(笑)
中学生のみなさん。テストに出ますよ~~!!