ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴る音に、期待に胸がトキメく。

「いい加減、慣れろよな・・・。」

なんて独り言を言いながら、インターホンのカメラを覗くと宅急便の制服を着た青年が立っている。

「そりゃそうだ。」

今日はまおは友人の開いてくれる卒業パーティーへと出かけているのだ。
こんなに早く帰宅するはずはない。
もし、帰宅したとしてもチャイムなんて鳴らさずに、合鍵で入ってくるのに。

「はい。お待たせしました。」

ちょっとがっかりしてしまった気持ちを押し殺して、ドアを開ける。

「渡辺大輔さんのお宅でよろしいですね?」
「はい。」

パタン。とドアが閉じられ、小包に視線を落とす。

「今日はいつ帰ってくるんだろう・・・・。」

「卒業おめでとう。」と言うのは、なんだか違う気がしたし。
「お疲れ様でした。」って言うのもよそよそしい感じがして。
結局トクベツなことは何もしなかった。

まおがけじめとして実家を整理して、俺が受け入れる。
ただそれだけ。

それだけで俺たちには十分だったのだけれど。

毎日まおの友人から連絡が入り、「まおっ。6年間ありがと~~。仲間内で集まろうよ。」
なんて誘いを受けては、いそいそと嬉しそうにでかけてゆくまおを見ていて、
俺だってなにかしてやりたい。

そんな衝動に駆られて選んだ一冊の本。

未来を支えてやりたいから。

「あんまり羽根伸ばしすぎるなよ・・・・。」

まおのために取り寄せたアンティーク家具の写真を特集したデザイン本を、まおのデスクの上に置く。
きちんと整理された机に置かれた俺からのプレゼントを、まおは喜んでくれるだろうか。

「ちぬの誓い」の稽古が忙しくなってきて、まおにかまってやれない寂しさが募る。
仲間に恵まれ、愛され、楽しく過ごしているであろう時間を思い浮べて、ほっとすると同時に疎外感を感じる。

「もっとオトナになれよ・・。ダイスケ・・・・。」

まおだって、俺が自分の仕事に打ち込むことを望んでいるはずだ。


仲間からの連絡を受け、嬉しそうにする反面、
「一緒にごはん食べれなくて、ごめんね?」
などと申し訳なさそうに俺のほうを伺いを立てることで、十分に愛情は伝わってきているのだ。

なのに、一人置いていかれたような気分になる。


ピンポーン。

またチャイムの音が頭の中で鳴り響いた。